スティーブン・キング独断的傑作選    人に薦められない編

ファイアスターター
ファイアスターター (上) (新潮文庫) ファイアスターター (下) (新潮文庫)
平凡な学生カップル、ヴィッキーとアンドルー。二人は何気なく参加した実験によりESP能力者となった。表向き「取るに足らない臨床実験」であったはずのそれを管轄したのは<店(ザ・ショップ)>、CIAの下部組織の一つ(の様だが詳細は不明)である。二人の娘、本編の主人公である少女チャーリーは父と共に<店>の施設から逃亡するが…。原稿総枚数の99%まで徹底的に読者をいたぶり続けるキング式ライティングの本領がこれ以上なく発揮されて憂鬱極まりない。しかしご安心あれ、結末は見事なカタルシス。ガープス・サイオニクスのプレイ前にも必読の一冊。
『クージョ』
クージョ (新潮文庫)
クージョはとても大きくて賢くて心優しいご近所でも評判のセントバーナード。そんな彼はある夏の日、野ウサギを追って小穴に鼻を突っ込み、コウモリに噛まれて狂犬病に感染する。要約すれば「突如凶暴化した愛犬から逃れるため自動車に母子が閉じ籠もる」というだけの話だが、アンラッキーのドミノ倒しが物語をどこまでもキング式に染める。警邏に来た警官は役に立たぬまま退場し、妻と子が炎天下蒸し風呂状態の車内で苦しんでいるその時、主人は隣の主婦と浮気の最中…。これ以上なくうんざりしたい時にお薦めの一冊。
『イット』
IT〈上〉 IT〈下〉
子供たちの間の噂。下水には何か名状し難いモノがいる。ある大雨の晩、一人の少年の弟が<it>によって側溝に消えた。少年たちは力を合わせて下水に潜り、<it>の撃退に成功したのだが…。それから数十年、成人した彼らは一様に何かを忘れていた。そう、<it>の記憶を。というそのまんま浦沢直樹『20世紀少年』の元ネタとなった名作。大変面白いのだけれどもいかんせん長い。凄まじく長い。だって少年時代の冒険を丸々描いた上でもう一度中年達の冒険が行われるのだから普通のお話二つ分ある。一作で二作分読みたい人にお薦めの一冊。
『シャイニング』
シャイニング (上) (文春文庫) シャイニング (下) (文春文庫)
リゾートホテルの冬季管理人として雇われた、売れない作家とその家族を襲うのはホテルに染みついた怨念   .度重なる悲劇により複合化し、corpsの段階にまで達した強烈な怨霊   .だった。同様のタイトルで映画にもなっているが、これはキング作品の映画化にしては珍しくよくできていて大変怖い。もちろん原作も大変怖い。リゾートホテルの冬季管理人になろうとしている友人を翻意させる際にお薦めの一冊。ちなみに実際の話、冬の山小屋等に少人数が滞在するとしばしば目も当てられない殺戮事件が発生する。キャビンフィーバーと呼ばれる情緒不安定性障害が原因と言われているが…真実は藪の中ならぬ小屋の中。
『ペット・セマタリー』
ペット・セマタリー(上) (文春文庫) ペット・セマタリー(下) (文春文庫)
小さな村に越してきた家族。可愛らしい家と広い庭。新居を大いに気に入る面々。だが父親にとってただ一つ気がかりなのは、家の前を横切って大型トラックが往来する道路だった。…悲劇は彼が死んだ愛猫を「墓所」に埋めた時から始まったのか、それとももっと早い時点から始まっていたのか。カタルシス一切なし、不幸の結末に向けて一直線ならぬアップダウンするストーリー。こうなったら最悪だよねと読者が考えるそのままの展開を、勿体付けて記述するキングの素敵な性分が存分に楽しめる。キングが嫌いになりたい貴方に送る一冊。
『キャリー』 
キャリー (新潮文庫)
狂信的清教徒の母親に育てられたキャリーは、世間ズレのために村八分。ところがクリスマスも目前のある日、学園のヒーローにパーティへのエスコートを申し込まれ…。80sに数多制作された類の映画であればこのままハッピーエンドなのだけれど、もちろんキングがそんなことを許すはずもない。なお彼女の暴れっぷりは映画と原作で大きく違う。映画でも大概無茶苦茶なのだが、原作では…これ以上は読んでのお楽しみとさせて頂こう。青春映画なぞテレビごと叩き壊したいという人にお薦めの一冊。キャッスルロック崩壊の序曲でもある。