スティーブン・キング独断的傑作選 〜 誰にでもおすすめVer. 〜

死のロングウォーク
バックマン・ブックス〈4〉死のロングウォーク (扶桑社ミステリー)
リチャード・パックマン名義で執筆された作品。舞台はおそらく近未来、我々の世界とは少しだけ歴史が違うアメリカ。100人の少年達が参加する競技の名前はロングウォーク、昼も夜もただひたすらに歩くだけ。ただし立ち止まることは許されない。一時間内に三度目の警告を受けたその瞬間、彼は射殺されゲームから脱落する。ロングウォークは続く、参加者が最後の一人になる時まで…。キングが学生時代から暖めていた、強く示唆的な内容を持つ絶妙の処女作品。コンパクトだしスリリングだし一言で面白い。加えてその後のキングのあらゆる主張がこの中に見られるなんてこれはもう超お得と言うしか。
スタンド・バイ・ミー
スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)
恐怖の四季・秋冬編に収録。タイトルを知らない人の方が少ないくらいに有名。しかるにそのテーマはけして「友情」などという健全かつ生やさしいものではない。私たちの生きる世界では時と運命がいかにさり気なく、理不尽かつ無情に、美しくも慎ましい日々を押し流してしまうか、という極めて絶望的な事実を徹底的に著述した作品なのだ。そう、四人は普通の子供だったし、普通の仲間だった。にもかかわらず、この物語が語られるその瞬間、生き残っているのはたった一人なのである。「あんまりじゃないか!」 世界に神の姿を求めて止まない頃のキングの深い絶望が滲む。
『トム・ゴードンに恋した少女』
トム・ゴードンに恋した少女
ごく普通の10歳の少女がひょっこり原生林に迷い込む、というだけのお話も、キングが書けばこういう具合になる。たとえ可愛らしい少女だとしても空腹のあまりメダカを生で頭から囓るし、下利便の上に尻餅もつく。ほんの些細な選択ミスが引き起こした大惨事を嫌になるほど生々しく綿密に描写することで、キングは運命の理不尽さを、落とし穴だらけの世界を、そしてそれらを司る残酷な神への疑問まで匂わせるのである。…等という理屈はさておき普通に面白いサバイバル小説。 → id:hajic:20040513#p1
アトランティスのこころ
アトランティスのこころ〈上〉 (新潮文庫)  アトランティスのこころ〈下〉 (新潮文庫)
「本当に幸せであったあの頃」を徹底的に丁寧に綿密に情感たっぷりと描くことにより、過ぎ去りし後の喪失感を直球で投げかける凄まじく嫌な作品。キャスト達は皆一様に深い悔いを持つ。そう、彼らが最も幸せであった日々を喪失させたのは、彼ら自身のかつての過ち。それらはとてもささやかで、そして極めて致命的だった…。この作品に満ちあふれているもの、それはあまりに残酷で無情なこの世界の現実、もう帰らないあの日への懺悔に近い郷愁である。だからこの物語はどこまでも無情で切なく、何気なくも残酷で、悲しいほど美しい。装丁も美しい。 → id:hajic:20040226#p1