『木のぼり男爵』 イタロ・カルビーノ

ISBN:456007111X
イタリア男爵家の長男コジモ・ピオヴァスコ・ディ・ロンドーは12歳の誕生日いけずな姉のカタツムリ料理を食べるのを拒否し木に登ってから死ぬまで(実際のところどこで死んだかわからない)ずっと木の上で過ごした。領地が隣り合うオンタリーヴァ侯爵家に樫の木を伝って侵入した際恋に落ちた侯爵の娘ソフォニスバ・ヴィオーラ・ヴィオランテの「あなたは木の上の領主様よ!でも、地面に落ちたら全てを失うの」という言葉に従って。
この物語の楽しみ方には人それぞれ様々なアプローチがあるだろうが、私にとってのそれはやはりコジモとヴィオーラの激しくも不器用なロマンスである。悲しいほどに強情な二人は互いを深く愛しながら、それを言葉にするすべを持たない。いや、本当に伝えたい想いに比べ、手段としての彼らの言葉はあまりに無骨すぎるのだ。二人を永遠に決別させることになる口論のシーン    わずか二ページの    には、その全てが凝縮されている。だからこそそれは素晴らしく心に残ると共に、読み手にこう嘆かせて止まない。ああ、人がそのこころをありのまま伝えることができたなら!
<<あんたはわたしの望んでいるとおりのあんただわ・・・・>>という、そのことばが今にも唇をついて出て、すぐにも彼の所へのぼって行きそうになっていたのだ。・・・・彼女は唇を噛んだ。そして、こう言った。「それじゃ、あんたは一人でかってにそのご自分を失わずにいなさいな。」
<<でも、それじゃ、そうしている意味がない・・・・>>そう、これがコジモの言いたかったことなのだ。ところがこう言ったのだ。「あの二匹のうじむしのほうがいいのなら・・・」



あらすじ全文 (反転・CTRL+Aで表示)
イタリアの男爵家の長男コジモ・ピオヴァスコ・ディ・ロンドーは12歳の誕生日いけずな姉のカタツムリ料理を食べるのを拒否し木に登ってから死ぬまで(実際のところどこで死んだかわからない)ずっと木の上で過ごした。領地が隣り合うオンタリーヴァ侯爵家に樫の木を伝って侵入した際恋に落ちた侯爵の娘ソフォニスバ・ヴィオーラ・ヴィオランテの「あなたは木の上の領主様よ!でも、地面に落ちたら全てを失うの」という言葉に従って。
彼女がオンブローザをたち、都会の寄宿舎へ行ってからも彼の木の上での生活は続き、父の死により爵位を継ぐもやはり彼は木の上の男爵であった。数年のち寡婦としてオンブローザに戻ってきたヴィオーラと結ばれるが、彼女の特殊な愛情表現と彼自身の哲学による頑なさは二人の幸せな時間を短いものにした。深い後悔を残したまま彼女は再びオンブローザを去り、二度と帰って来ることはない。彼女を失った彼はより偏狭となり、尊敬されながらも狂人と呼ばれる。老年、病床の彼を心配した弟が木の上から彼を連れおろそうとしたある朝、彼は近くを通った気球のロープに飛びついて旅立ち、そのまま消息不明となる。