ハルヒ総括3 「面白い世界」

しかし、この考え方は結局先のハルヒの自作自演と変わらないつまらなさに落着してしまう。その主体がキョンに変わるだけの話で、言ってしまえば「乙女の純情」が「おたくの夢」に入れ替わるだけである。誰かが世界を自由に変えられるという概念はあまりいじくらない方が良いのかもしれない。そもそも本作はキョンによる一人語りであって、本作が語るところの世界とは所詮単なるキョンの認識以上のものではない。


彼の語るところを額面通りに受けとるのは危険過ぎるし、彼に色々入れ知恵をするスーパーナチュラル三人組にしたって、決定的に真実を述べているという保証は全くない。むしろ古泉のセリフに見られる通り、彼らの主張はそれぞれ極めて怪しい仮説に過ぎない(キョン自身当初信じなかった)のだから、それらを持って「ハルヒの世界」というものが確固として存在すると決め付けるのはあまりに冒険だ。


比較的確かに存在するのはキョンの認識のみであり、世界はどういうわけか知らないが彼にとって極めて望ましい結末を迎えた。ほぼ確実に言えるのはたったこれだけ。そしてこれはハルヒの能力などではなく、またキョンの能力でもなく、素直にそういうふうになっていたのだ、と考えたほうがスッキリする。実際この問題に対し、アニメは「運命様から決められた」として言い切った。当初これは本気かといぶかったけれど、今となっては何となくわかる。


ハルヒという作品はあまりにケレンが多すぎて一体何が本当のことなのかさっぱりわからない。顕著なのは朝比奈みくるのホクロ騒ぎで、あれ自体が矛盾であることは冒頭のあんよ氏の考察内部でも触れられている。この手の作品は末節にかかわると迷子になるのがお約束で、絶対わからないように出来ていると言っても良い。だからこそその読解はまず著者の主張を見つけ出し、そこに全てを後付けしていく他に手だてがない。


じゃあそれは何なのかと問われた時、僕が今言えることは、やっぱり素直に「世界は面白いんだ」という主張だと思うのだ。そしてその世界なるものを信じられない捻くれた人のために、そう、このハルヒの世界は、おたくの夢も乙女の純情?も言葉遊びも解読ゲームも何もかもひっくるめた上で、「ほら、少なくとも本を読むってことは、こんなに面白いでしょう」と言う著者の主張をこの上ない形で示している、見事な証拠そのものだと、僕は思っている。