春分の日

教皇ベネディクト16世の回勅『Deus Caritas Est』*1によれば、元々聖母へのお告げの祭日、天使による受胎告知*2は春分の日であって、ここから始まって約9ヶ月後がキリスト誕生の日、すなわちクリスマスなのだという。つまり何かと言えば「キリスト教はよく言われるように”古代宗教の冬至の祭を意図的に乗っ取った”のではない!*3という主張である。現在お告げの祭日は3/25に固定されているので、クリスマスはその9ヶ月後という彼の説明にははあなるほどと思う反面、「なんで十月十日じゃないの?」だの「春分の日を意図的に乗っ取ったのでは」だのといらぬ疑問は湧く。彼はローマ教会とその教えに対する反論を積極的に行うために敵は多い*4こんな日本人の適当な質問程度は軽く吹き飛ばしてくれると期待したい。

*1:回勅はローマ教皇の出すお知らせで、伝統的にラテン語で執筆される。ラテン語はセンテンス内の語順が思い切り自由なので、回勅や祝詞はそれを利用して冒頭数句をそれっぽく仕上げ、そのままタイトルとする。この場合はDeus(神は) Caritas(愛) Est(です。)。有名な『Ave Maria(grazia plena... こんにちはマリア、あなたにはお恵みたっぷり…)』もその手合い。カラオケの歌い出し検索がそのままタイトルになっているようなもので、大変便利である。

*2:左手に天使、右手に目の泳いだマリア、というあの構図である。突然やって来た天使ガブリエルに「ごきげんよう、幸せたっぷりなあなたは神の子をゲット」と言われたマリア、「お言葉通りになりますように」と言う。ただしこの状況は大変危険だった。神の天使の言葉は神の言葉なので、これに疑いを差し挟むと即罰ゲーム(旧約だとゲームオーバー)なのである。実際にマリアの親戚エリサベトの旦那は「そんなアホな」とうっかり呟いたばっかりにしばらく口が利けなくなった。

*3:クリスマスは復活祭と並ぶキリスト教の最大イベントである。復活祭はユダヤの過越祭との関係で日付が特定できるものの、聖書にはキリストが何時誕生したのかという直接的な記述はない。ところがどういうわけかクリスマスは12/25ときっちり決められている。そこで通説として「キリスト教は古代宗教の冬至の火祭りを乗っ取ることで彼らの宗教母体を吸収した」という説明がしばしばなされる。教会はこういういちゃもんが我慢できない。

*4:何より目の下にクマのあるあの顔がドラキュラみたいで怖い、という理由が大きいのではなかろうか。スターウォーズのパルパティン議長を何となく彷彿とさせる。しまいには「魔法って考えはやっぱり安直だよね」とインタビューに答えただけで「新教皇はハリーポッターを批判!」といじめられる具合である。まあ西洋世界は日本人の予想を越えてドロドロしているので、色々あるのだろうけれど、ともあれ悪人顔のパーパ様を個人的には応援している。