Fate 慎二くんは悪くない

ある意味罪作りな彼女

最終ヒロイン間桐桜の義理の兄であり、Fateきっての嫌われ者である間桐慎二くん。その嫌われ様たるや発売直後の2ちゃんねるから現在のblogに至るまで凄まじい。もちろん原因は明白、桜との日常的な肉体関係である。主人公の士郎に自己を投影するノベル読者からしてみれば、メインヒロインかつ清楚な雰囲気が売りの美少女、おまけに義妹という関係でさえある桜に手を出すとは許しがたい、百回死んで償え、というところ。
ところが冷静に判断してみれば、慎二の行いなどというものはたいていの18禁ノベルで”お兄ちゃん” 、つまり主人公が義理の妹に対して行う行動と変わらない。我々逸般ゲーマーの感覚はしばしば麻痺しがちだが、近親相姦とは傍から見るとかくもおぞましいモノのようである。そういえば『加奈』でも、主人公であるお兄ちゃんが義理の妹加奈とaffairに及ぶわけだが、加奈に好意を寄せていた少年(勇太)が事実を知った時の衝撃たるや想像することさえ気の毒だった。
ともあれ、慎二嫌いのFate読者の多くは自己矛盾状態にあると言ってよい。つまり俺は良いがお前は悪い、という状態である。こういうのを「心に棚を作る」と言う*1のはさておき、あまりに筋が通らない話だ。それも嫌がる桜を無理やりに、と言うのであればともかく、彼女は慎二が嫌いでなかったし、身体的にも彼を必要としていたのだから、慎二の行動は十分理解できる範囲ではないか。加奈の”お兄ちゃん”が許されるのであれば当然慎二のそれも許されるべきだ。何より、慎二はずっと桜が大好きだったのだし(たぶん)。
というのも(非常にモテるとされている)慎二があれほど凛一人に執着するのは、まさに桜への愛情の裏返しだからである。慎二がいくら桜を救いたくとも、魔術一族マキリの人間である彼は影の当主ゾウケンに逆らうことはできない。ゾウケンの計画に組み込まれ蹂躙される哀れな桜を愛しながら、しかしどうにもできない無力な彼は、絶望の日々に自分を責めながら桜に代わりうる存在を探すほかなく、つまり代償的に桜の姉である凛を求めたのである(たぶん)。その衝動が少々度を外れたとしても彼を責めるのは酷というものだ。
だいたい一番悪いのは当初の目的をすっかり忘れていた老人性痴呆のゾウケンである。わざわざ半不死になってまで大げさな秘儀を求めながら、目先の目的に目が行くばかりにいつの間にか手段が目的になってしまったというマヌケぶり。長生きしすぎるのも考え物だ。次からは不死化の前にまず、ボケないように手を打っておいていただきたい。とばっちりを食う桜や慎二が気の毒で困る。

*1:島本和彦炎の転校生』より。ちなみに彼の作品の殆どは冗談だが、まれに素晴らしいのが混じる。『逆境ナイン』『燃えるV』『男の一枚レッドカード(の一部)』etc.