『se7en』に見るiM@S MADコミュニティの今

りんごP 『se7en』feat.春香

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1282826


衝撃と沈黙
下記事で紹介した(というかid:hunirakuniraさんのところで見てびっくり仰天して脊髄反射した)アイマスMAD『se7ven』。紹介コメントが思いつかないことに気づき、ふと考え込んだ。本作の何が衝撃的なのか。あるいは、僕はいったい誰に向かってこれを紹介しようと言うのか。
いや、考えるまでもない。初心者向けアイマスMAD紹介を標榜する本サイトとしては、その衝撃の秘密について、平易な文脈で言及せざるを得ないだろう。というわけで、この動画について、駆け出しアイマスMADファンとして解説を加えたい。

例えばその特色は3つの要素に分けられる。


(1)選曲、洋楽、しかもインストゥルメンタルで、特にキャッチーでもない
(2)映像、動画にコメントが被せられることがニコニコの特色だが、3Dコメントとは
(3)内容、無機質かつどこか不安な映像にもかかわらず、実はアイマスMAD界隈ネタだらけ


理解の文脈
ざっくばらんに言って、確かにCOOLな動画ではあるけれど、おそらくこれを普通の人が見ても途中で投げ出すに違いない――「つまらん」。事実、この動画のエンターテイメント性のほとんどは(3)の部分で占められているので、ジャンル外の人にはさっぱり意味不明のはずである。反対にアイマスMAD界隈の人にとっては全く説明は無用で、(1)〜(3)の理由から文句なしに衝撃的な作品となる。つまり、それが現在のアイマスMADコミュニティ内外差であり、時に新規の参入を妨げる敷居なのだろう。以下、各要件について解説する。

(1)選曲:通常であれば、ミスマッチ

に他ならない選択。『アイドルマスター』がアイドルゲームである以上、使用される曲はアイドルアイドルした可愛らしい曲が多い。もとよりゲーム使用曲はキャラクターの性格付けからはみ出ないものであったし、多くのアイマスMADで使用されるようなゲーム外の曲も、程度の差こそあれ基本的には「歌って踊る」系の曲が選ばれる。もちろん一連の『とかち未来派』シリーズのようにトランスが使用される場合もあるけれど、それにしたって何らかの温度を感じさせるもので、本作のような冷え冷えとした、しかも迫力のあるインストゥルメンタルが選ばれることは稀。


(2)映像:まずもって、美しい

もちろん視点によっていろんな評価があるだろうけれど、素人が無償の手作り作業で世に放つ作品として、これが高度な技術と作り込み作業を経たもの、と認識されることにおそらく議論の余地はあるまい。その演出には多くの側面で見るべきものがあるにしても、特に視聴者の目を引き、また注目すべきアイデアは、動画内にコメントを内蔵したことだと思われる。しかもそのコメントは、アイドルマスターという3Dゲームに対応して空間的位相を与えられ、大きな演出効果を上げている。視聴者のコメントが作品を補完するというニコニコ動画の通念に対し、本作は実に挑戦的だ。


(3)内容:衝撃的なその真相

重要な点は、この作品がさらりとアイドルマスター登場全キャラクター10人に言及していることだろう。さらに、それぞれのキャラクターの周囲には前述の3Dコメントが配され、それぞれのキャラクターの(アイマスMAD界隈における)プロフィールを端的に表している。それを有り体に言えば、ネタである。そう、『se7en』がこんなに真面目そうに、シリアスそうに、有無を言わせぬ迫力で語るものは、なんと「このアイドルは死ぬほど貧乏」とか「実は腹黒い」とか言ったレベルのネタなのだ。この落差! ある意味で衝撃的ではあるまいか。ネタにこの努力である。アホである。壮大な、すごいアホである。


ニコニコという培地の上で
以上、どうしてアイマスMADファンがこの『se7en』についてワーワー喚きがちになるのか、ということの様々な側面について、頭の上ではおおよそ理解して貰えたのではないか。もちろん、それでもやはり「だからなんなの、つまらん」と思う人はいるだろう。普通の反応だ。
けれど、ここで僕が主張すべきことは、アイマスMADファン、そしてそれが構成するアイマスMADコミュニティと呼ばれるものは、今やこのような無駄に高度で難解なネタ作品さえ進んで理解し、喜んで受容できる段階にあること、つまり無駄に大量の共有知識データベース(全て喜びのための)をネット上に構築しているのだという事実である。


アイマスMADコミュは今
ニコニコ動画内、アイマスMADコミュニティ。そこでは日々、各アイドルのひいき同士、また各MAD制作者のひいき同士が「ほーらやっぱりちんこうP」「12円!」「春閣下最高 orz」としのぎを削っていて、その結果日々新しいMADが生み出され、アイドル、制作者、ファン、そんな全てを巻き込んだ数々のファニーなストーリーが、今この瞬間にも紡がれているのだ。







と、アイマスMADファンの一人としては思う。まあ、そんな偉そうなことを考えなくても、単純に、それだけ多くの人と時間と手間暇を吸い寄せているおもしろジャンルなんです、というくらいにしておいた方が無難かも知れない。時々うっかりした人が間違えてこういう呆れるほど凄く無駄な技術と労力の無駄づかいをしてしまうくらい、おもしろ魅力的な世界なんだ、くらいに。

また万が一、本作を「凄い」と思う人がいたときのために、僕は付け加えておきたい:当作品は、この制作者が参入第一作として放ったもの。現在のアイマスMADというジャンルが、技術的演出的にもどの程度まで進んでいるかは、容易に理解できるのではないだろうか(もちろん、技術や演出が全てではないが、このレベルの作品がある日突然生まれたものでないことだけは強調しておくべきだと思う)。


いつでも貴方のお越しを待っています。
楽しいぞ。