スティーブン・キング『アトランティスのこころ』

アトランティスのこころ〈上〉 (新潮文庫)  アトランティスのこころ〈下〉 (新潮文庫)
ああやっぱりこれ、キングの最高傑作だ。
キングの”リアル”は、残酷という言葉とイコールで結ばれる人の世の現実だけれど、彼の場合それをただグロテスクに描くだけでは終わらない。チープな舞台装置の上に無意味で寂しい人々の物語を紡ぎながら、そのくせものすごく微妙なさじ加減でバランスをとって、最後にはどこか暖かい感触を残す。もちろん微妙すぎてよく失敗するから、彼の小説の9割はお風呂の薪にした方がまし。でも、たまにはとんでもないのが出来上がっちゃうから侮れないし、たぶんこの本はその中でも一番の出来だ。どこまでも残酷で、後悔に溢れていて、救いようのない世界だけど、どこかその向こうにhopeを感じたくなる、そんな物語。『スタンド・バイ・ミー』以来投げ出したままだった絶望への答えが彼にもやっと見えてきたのかもしれない。

こんなお話に出会うために、これからもキングのどうしようもなくつまらない小説を待ち続けてしまうんだろなあ。ホントひどい作家だよ。どうしようもなく残酷でチープで容赦なくて…

■はじCアワード 【私の一番好きなキング作品賞】 受賞
誰もが心のどこかに覚えている、どうしようもなくやるせなくて切ない、あの日の罪。やり直しができない世界の中で、時代と時間に押し流されながら、私たちは生きていく。
なんですかこれは。むちゃくちゃ良いです。キングがホラー色を落として送り出す作品群、たとえば『スタンドバイミー』であるとか『刑務所のリタ・ヘイワース』であるとかの素晴らしさはここで書く必要がないけれど、この作品はそれら全てを越えた地点にあるのでは。といってもある程度キングの作品を読み続けた読者でないとわかりにくいかもしれないけれど。ある意味キングのすべてが詰まってる一作。