true tears ☆☆☆

 僕の見渡す界隈、読み物系の人々が意外とこの作品を手に取っていないことは不思議で、また残念にも思える。これは明らかに我々の方を向いた作品で、だからこそ語る声が聞きたい。僕の視点から洩れた視界、それが見たい。


true tears vol.1 [DVD]

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 『さくらむすび』というゲームを知っている人もいるかもしれない。名作になり損ねた駄作だ。もしも、もしもそれが正しくコンダクトされればどうなるか、まざまざと見せて貰った。『true tears』、紛れもない傑作である。


 キャラクターに思い入れを持ち、萌えるという現象は、ご存じの通り比較的容易く発生する。ただ、作品の描く世界それ自体が愛おしくなること、これは難しい。恐らく片手で数えられるほどの作品のみが、それぞれにとってその立場を得るだろう。


 受動的な主人公と、彼を取り巻く複数の少女。ラブコメの正統的な、あるいは陳腐な構成を軸に、この言葉少ない物語は、見せかけを遙かに超えてパワフルに駆動する。結局のところ、これこそが日本のファンタジーなのだ。世界中のオタクを惹き付けて止まない、驚嘆すべき女難の相。その顛末を描き切ることのできた希有な作品の一つとして、僕は『true tears』を強く推す。


 見るべきだ。この世界はあなたに値する。





 エロゲの文脈は、時に思いがけない奇跡を起こす。咲き誇る季節は過ぎても、それは確かに素晴らしい実りをもたらした。複数人のモノローグを一点に、群像の頭上へと導く技術、四福音書に端を発し、KANONEver17、そしてシンフォニック=レインに至る、主役のいないパースペクティブ。舞台を去り行くキャストに拍手と告別を、世界の紡ぎ手に賛美と感謝を。