京アニだって駄作は作る

青ひげノートさん(リンク)記事。案の定と言うべきかゴタゴタに。
京都アニメーションは水際立って高度な技術力と優秀な脚本家、監督、プロデューサーを持った貴重な制作元だと認識し、高く評価するけれど。
技術力の高さは確かに素晴らしい。けれどそれだけを見せびらかして散らかすだけでは、映像作品としてはどうあれ、物語を持つアニメとしては評価に値しないのでは*1


オフィシャルファンブック 涼宮ハルヒの公式
僕は同じく京アニ制作のアニメ『涼宮ハルヒ』を、脚本構成も含めた高度な制作技術の間のバランスの面から高く評価しますし、だからこそ同12話(ライブアライブ)をその「技術力の高さ」から手放しで褒め讃える向きには反対です*2


フルメタル・パニック! The Second Raid Act3,Scene12+13 (通常版) [DVD]
京アニだって駄作は作ります。現時点ではまだ彼らの携わった作品は決して多いわけではなく、そのため彼らの成功と栄光のみが語られる傾向にありますが、実際『フルメタルパニックTSR』などひどい物でした(過去記事参照-リンク*3 *4

絶賛される『AIR』だって、けっして手放しで褒められたものではありません。


AIR 6 初回限定版 [DVD]
そもそも原作がストーリーとして成り立っているかどうか極めて怪しい代物(過去記事参照-リンク)でしたから、それをあそこまできちんとアニメにしたのは紛れもなく京アニの見事な手腕。
ただしそれでも、あのアニメ『AIR』の衝撃は、僕の中でその第一回の映像、構成の恐るべき美麗さから徐々に右下がりの曲線を描いていったのも確かです。
はっきり言いましょう。一般になされているアニメ『AIR』への評価は、熱烈原作ファンか技術力至上主義者か海外の純朴なotakuたち以外にとっては、それほど当てになりません。単純にストーリーとして見れば、あれはつまらないし、すごくくさい*5
結局のところ、京アニだって駄作は作る。そしていくら京アニの脚本構成力がすごくとも、原作の時点で破綻したストーリーはどうしようもないし、いくら美術系技術力がすごくても、それで脚本レベルでの失敗を埋め合わすことはできません。


Kanon prelude [DVD]
アニメ『KANON』はまだ途上です。これからどう展開していくか分かりません。けれど2クールを費やす以上、それは京アニの渾身の一作であり、今後の展開に十分期待は持てるはず*6
ただし、京アニも駄作を作る。この事実はしっかり踏まえておかないと、せっかく回復の芽の覗きつつある日本アニメ界に、また一つ(青ひげノートさんの皮肉るところの)”大手”が誕生することの後押しをしてしまうことに他ならないでしょう。

*1:その一方で、彼らが原作を愛し、それに忠実であろうとするほどに、彼らは原作の軛に繋がれてしまう傾向も持つように思えます。作品に”論点”を与え続ける彼らの高いプロ意識と教養に基づいたバランス感覚は、通常ここに他社作品よりも十分に適切な折り合いを見出しますが…。

*2:「クラスメイトはポテトじゃない(life can be fun. People are not potatos. )ってことをハルヒが初めて理解した重要な瞬間なんだ」という意味で高い評価を与える意見には反対しません。ただし少々唐突(あるいはキャラクター成長テーマの重複)であり、可能であればむしろセカンドシーズンのクライマックスに持ち越すべきだったのではないかと感じはしますが。(参照:http://www.designchronicle.com/memento/archives/suzumiya_haruhi_no_yuuutsu_ep14.html#commentsのMellowMG氏発言「The reverse character development is jarring」。彼本人はどうやら時系列を勘違いしているにしても)。

*3:色々とひどい点はあるのですが、何が一番ひどいって双子の美人姉妹です。海燕チャットでは【美人姉妹:視聴者を嫌な気分にするために登場する】と定義されたくらいに。彼らの(最高傑作の一つでもある)出世作が、同作のコメディ版『フルメタルパニック?ふもっふ』であるというのは実に皮肉です。

*4:TSR』関連コメント: http://d.hatena.ne.jp/hajic/20060609#c1164818819

*5:ああ、お間違えなく、僕は『AIR』大好きです。原作の持っていたあの理不尽に濃密な雰囲気は、歴史的と言って良いでしょう。彼らは音と文字と画像の限られた組み合わせだけで読者に忘れられない夏を刻んだ。まさに『KANON』が「統合されていく奇跡」を、パラレルに分断されていたノベルゲーム世界に持ち込んだ点で真に歴史的であるのと同じ様に。ただし、だからと言って『AIR』が面白かったなどとは言えません。

*6:それでも現時点まで、原作に特に思い入れも、技術力に対する情熱も持たない視聴者にとって、それが扁平な印象を与えているという可能性は否定できません。もちろん、その退屈なまでの序盤の扁平さこそが中盤以降の波乱の間にギャップを産み、またその一見何もない扁平さの裏側に隠されている事実の存在は、それを知った以後に視聴者に突きつけられる「扁平の仮面」の残酷さを、一層際立たせる仕掛けであることは理解できます。明らかに、現時点で京アニKANONに評価を下すことは好ましくない。