摂理

その時わたしは気がついた。泣かないのもそのためだ。わたしが泣いたら、全部、本当のことになってしまう。だから、泣けないのだ

会えるとするなら、いつか生を越えた時。――その日まで待っていて下さいね

一ノ瀬…あたしは信じる。世界中が違うといっても、あたしは信じる

世界には理解できない、意味のわからないことが、確かにある。物語はこの前提から始まり、最終的に「信じる」という形で幕を下ろす。当然、一筋縄ではいかない。批判と検証、理性を動員した作業は究極的に、「分からない」ことの存在を認めた上で「納得する」。それはけして盲目ではない。そこには「信じる」に足る理由、判断を下したわたし、その中心に結晶した自尊心があるから。では、その対象とは何か。人それぞれに課せられる、時に極めて理不尽なそれの、信じるに足る意味とは何か。ミステリという言葉がある。その本来の意味を知っている人は少ない。