ヴェネツィア 水の都の街歩き

ヴェネツィア 水の都の街歩き

「水の都」と言うヴェネツィアの華やかな渾名はよく耳にするけれど、実際のところその名はどうもピンとこない。私にとってあれは何というか、道の細い変な街である。例えば玄関口であるサンタルチア駅(住民はフェッロービアと良く言う)を出てまっすぐ歩くとすぐに大運河にぶつかり、さらにまっすぐ歩くと運河に落ちる。

全くのところ水はあくまで目的地への障害物、ひたすら道をぐねぐねさせるための演出として存在するのであり、いわば水路で仕切られた迷路の街なのだ。一応街の各所(びっくりするほど細い路地にも)に案内板が出ているため、地図を持たなくてもなんとかなる。しかし反対に、特定の場所に行くにはたとえ地図があってもどうにもならない。絶対迷う。

どころか、むしろ下手に地図を睨んでいるだけに案内板を見落とし、かえってわけのわからない変なところに迷い込むのである。個人的に面白かったのはチワワ地帯。地図を握りしめた私が迷い込んだのは、なぜか(あの消費者金融でおなじみの)チワワがやたらめったらうじゃうじゃうろついている一角である。右を向いてもチワワ、左を向いてもチワワ。

すっかり拍子抜けし、地図をポッケに突っ込んで周りを見回せば、近くの学校の生徒が「チベディアーモドマーニ」と手を振り合い、花に水をやろうと窓を開けたお婆さんがこちらを見てかすかに微笑む。ああ、ヴェネツィアはとても素敵な「街歩きの街」だ。肩の力を抜いて、少しおしゃれをして、のんびりそぞろ歩きたい。行けばわかる。


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