丸山眞男 音楽の対話

丸山眞男 音楽の対話 (文春新書)
『ロマンティシズムは歴史的であっても、ロマンティックな心情は永遠である』

歌声は想いを重ねるために生まれ、楽譜は祈りを永遠にするために生まれた。溢れる想いはことばとなり、無限の孤独な心たちの間に響く。人の世のある限り、いつまでもいつまでも繰り返し。――さて、この本の内容を端的に述べるなら延々とフルトヴェングラーに関する著者たちの思い入れを語り続けているだけである。ベートーベンの第九は素晴らしいだの、カラヤンはダメだだの、酔っぱらったおじさんがくだを巻いているに等しい。それでもこの本が魅力的なのは、音楽の持つ意味と言うべきか、人間の本質にかかわる何かとしてのハーモニーを語っているからに違いない。形式としてのスコアと、それによる「追創造」という行為。想いは既に過去のものであり、二度と浮かび上がってはこないだろう。それでも読み手は彼の想いを五線から拾い上げ、それに規定され、導かれながらも、確かに自らの想いを語る。永久に完成しない創造は、だからこそ歴史を持つことができるだろうし、だからこそ、いつまでも真実を失わない。

(2/50)