新約聖書入門

新約聖書入門―心の糧を求める人へ (光文社文庫)
たとえ、人間の不思議な言葉、天使の不思議な言葉を話しても、
愛がなければ、私は鳴る銅鑼、響くシンバル。
たとえ、予言の賜物があり、あらゆる神秘、あらゆる知識に通じていても、
たとえ、山を移すほどの完全な信仰があっても、
愛がなければ、わたしは何ものでもない。
たとえ、全財産を貧しい人に分け与え、たとえ、賞賛を受けるために自分の身を引き渡しても、
愛がなければ、わたしにはなんの益にもならない。
――コリント人への第一の手紙

こんな危険な内容を内に含む聖書という書物を、私は畏敬の念を持って眺める。それは神について書かれた書物であるにもかかわらず、「たとえ、山を移すほどの完全な信仰があっても駄目」なのだと言う。愛がなければ、信仰があっても意味がない。つまるところ、このテクストが述べるところで、一番大事なのは愛なのだ。そして真実、キリスト教の根幹にあるのは、何かそう言ったものではないのかと、部外者である私は思う。だからこそ私は神という言葉に反発を覚えながら、キリスト教に惹かれざるを得ない。少なくとも今の私には、キリストを崇めることはできない。ただ、彼と彼の母によって象徴される大きな何かに、私は強く心を突き動かされる。