『結婚の条件』 小倉千加子

結婚の条件
少子化の原因は晩婚化にあるのであって、保育所の数が少ないからだなどと言う政府の見解は勘違いも甚だしい。日本は未だ妊娠=結婚という律儀なシステムが生き残る国であり、同棲率の低さはそのまま出産率の低さを表す。故に日本的少子化問題解決の鍵は結婚を躊躇う風潮にこそあると言えよう。しかし皆、けして結婚したくないわけではない。ただ「”幸福な”結婚でなければ結婚も子育てもしない方がまし」なのである。結果女性はひたすら王子様を探し、男性はロボットのメイドさんを探す。集団心理により問題はズルズルと先延ばしされ、晩婚→生涯未婚の傾向が進む・・・。
軽快な語り口とは逆に、本書の内容は相当にシニカルで憂鬱だ。著者は先日まで教鞭を執っていた、いわゆるインテリ女性であり、当然(この言い方はまずいかもしれないが)フェミニストである。にも関わらず彼女は一般的フェミニズム思想の隙を糾弾するのだ。男女平等とは言うが、無味乾燥な経済労働など男性に任せ家事及び趣味という自己実現的生き方を選ぶ方が、自立などよりよほど合理的な選択ではないか。そう、結局現代日本人女性の結婚願望をすべて叶えるものは、潤沢な経済力でしかないのである。
生々しさのあまり気持ちが悪くなる文体というものは確実に存在する。それはしばしば女性の著作であり、そしてその背後には彼女の挫折が見え隠れする。本書はけして難解ではないが、大衆向けというわけでもない。結婚の条件というタイトルこそ付いているが、彼女が提起する問題の根はそれと別の所にある。その意味で、本書は不運にも知的階層に位置してしまった小倉千加子という女性の、やはり知的階層としての心の叫びなのだろう。知ることがなければ苦しみも少ない。しかし一度知ってしまった人は、パンのみでは生きていけないらしい。