J.E.ラブロック『地球生命圏ガイア』

地球生命圏―ガイアの科学
海は放っておけばどんどん塩辛くなって生命の住めない死海となる。酸素は放っておけばどんどん増えて、一条の雷が世界中を火の海にしかねない。オゾンは基本的に増加する傾向にあり、行き過ぎると地上には紫外線が一切届かず、ビタミンDの生産が不可能になる。かようにこの世界が生命が生活するのに適した状態…化学的均衡…に保たれていることは明らかに不自然で、とても偶然の仕業だとは思えない。この世界は地球規模の生物的安定システム、名付けるなら「ガイア」によって最適な状態に保たれているのでではなかろうか。ガイアを構成するのはありとあらゆる地球上の生命体であり、その中には我々人類も含まれる。故に人間だけを自然から切り離して考えることも、工業文明を一括りに害悪であると考えることも間違いである。それらはあくまでガイアの一部を占める人間という種の行いであり、総合的にガイアの調節機能の中に含まれる有効な一システムである可能性さえあるのだ。
少々前にブームだったガイア仮説の元本。実験データや調査結果をどんどん積み上げて執筆された形式はダーウィンの『種の起源』にとてもよく似て、具体的証拠の山は読み手に強い説得力を与えてくれる。しかしながら、非常にロマンチックかつ魅力的ではあるけれども、ガイア仮説はやはりあくまでロマンチックな仮説に過ぎず    つまり様々な生命が総合的に見て地球環境を適切な状態に保っているとしても、それが直ちに地球規模の知性的制御システム(サイバネティクスシステム)の存在を証明することにはならない    ガイアなる地球規模の知性存在の実証がこれからの最大の課題である。まあその限りない不可能性がこの仮説の致命的欠陥であって、嫌悪者からは「ガイア教義」だと言われる所以なのだけれども。