スティーブン・キング『トム・ゴードンに恋した少女』

トム・ゴードンに恋した少女
家族でハイキングに来た9歳のパトリシアは、トイレ場所を探してうっかり森にまよいこんだ。
…という状況から始まる、キングお得意の、ささいな出来事が積み重なって巨大なトラブルへと膨れあがる、逆コメディ的ストーリー。彼はホラー作家と言われるが、彼の長編は怪奇小説ではない。そこではモンスターは真の恐怖ではないからだ。彼の紡ぐ物語の中で本当に恐ろしいもの、それは理不尽な運命と人間の狂気、そしてほんのささいなすれ違い。この物語はトリシアの物語であり、同時に私たちの物語でもある。私たちを取り巻く世界とはどのようなものか。私たちはどのようにそこから、”足を踏み外す”ことになるのか。そして私たちは世界に、どんな神を感じることができるのか。キングが常に描き続ける、やさしき神なき世界にさまよう人々への、絶望に満ちた希望の物語。

■はじCアワード【人に薦められるキング小説賞】 受賞
アトランティスのこころ』以来、個人的にひさびさのヒット。といってもそれほどドラマチックだったりダイナミックだったりするようなお話でもない。キングがしばしば陥る、行きすぎたグロテスク描写とやりすぎの不幸供給が見あたらず、「行き当たりばったりで書いた」わりにはメリハリのついたお話である、というだけ。しかしキングの文体は絶妙なので、ただそれだけのことで十分楽しめる。反対に、キングの多くの小説は、「やたらグロテスクで」「あんまり不幸すぎて」「展開グチャグチャ」であると言える。ゆえに安心して人に薦めることができるキングの小説は少ない。その数少ない一冊に、この作品はチャートインが決定しました。おめでとう。