カンパネラの町並みがおかしい件

 ニコニコ動画でいくつかのアニメが1週間ずつ無料公開される仕組みが始まっている。数年前、無断で転載された動画にコメントをつけて遊んでいた人々には懐かしくもありがたい光景であろう。

 あいにく、ニコニコ市場を見る限り、DVD売上にはあまり結びついていないようだが、来期以降も続けて貰えると個人的には嬉しい。過去の名作なども放映できないものだろうか。

 以下では、そこでたまたま見た、『祝福のカンパネラ』というアニメ冒頭シーンにケチをつける。漫画にリアリズムを求めようという無理な因縁と承知した上で、アニメやゲームなどでしばしば見受けられるこの手の描写に対し、長らく抱いていた違和感をゲロする次第。誰かの後学になれば幸いである。

 さて、カンパネラというのであればおそらくイタリア語、少なくともヨーロッパ西南部的な舞台設定だと思われたのだが、どうにも街の様子がおかしい。


1)無駄に広い道幅
 
 

 道幅20メートルはあろうかという通り。しかも、なにがしかのイベントをするという立地であれば繁華街であろう。大都市部はいざ知らず、地方都市における市街中心部の複数車線道路というのは、それなりの目抜き通りだ。


2)やけに低い町並み
 
 

 そういうところにこの手の市が立つということ自体は、よく理解できる話ではあるのだが、妙なのは道を挟んで並ぶ町並みだ。どう見ても2階建て以上の家々には見えない。はっきり言って、小さすぎる。アメリカの開拓村ではないのだから。


3)不揃いな建造物
 
 

 背景の家に合わせてオーストリアの風景。町並みの乱脈さも和製ファンタジーの定番である。ヨーロッパの田舎町の道幅は狭い。そして建造物は上に伸びていく。ご覧の通り、4階建てはザラだ。


4)謎のワイン屋台
 
 

 客に立食でワインを振る舞う屋台。キャッシャーもなさそうなので、おそらく地場産品のプロモーションであろう。よく見かける光景だ。ただ、乾杯をするようなシチュエーションではない。(あと、ワインの一気飲みはご飯をごみ箱に捨てるくらい行儀が悪い)


5)まとめ
 
 

 まとめておこう。中心部の通りとしては、周囲の町並みの背丈が低すぎる。少なくとも三四階の町並みが連続して欲しい。町外れであれば、道幅は半分以下であるべきだ。付け加えるなら、乱開発でめためたになった日本の下町ではないのだから、町並みの外見に統一感が欲しい。

 ちなみに傾いているように見える塔は本当に傾いている。14本の尖塔で有名なサン・ジミニャーノなどはかつて70本以上の塔が並んだし、パダーノ平原の覇者ボローニャもかつて数十本の塔を誇ったというが、倒壊せず現存するのは2本のみ(片方は中途で傾き始めたため建築を放棄)である。イタリア人の建築に対する姿勢が見えて面白い。


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DSCF0002 posted by (C)もにやこ
 参考まで、パダーノ都市の一般的な屋根の風景。バルサミコ酢で有名なモデナの司教座聖堂(こいつも傾いている)の鐘楼から。手前に見える赤い屋根の部分が歴史的中心エリア、遠くに見える近代的なビルのあたりが新市街。

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RIMG0676 posted by (C)もにやこ
 こちらは中田選手のいたパルマ。7階建てのマンションの屋根の上によじ登って撮った。両者共にファルネーゼ家の治めた古き公国首都であるため建築物の背丈が高い。眼下の建物は5階建てである。手前に見えるのは煙突。


おまけ
twitterでこの手の町並みの話をした。

おまけ2
ARIAの胡散臭さと、物語のリアリティについて。


 
 ちなみに、『GUNSLINGER GIRL』はよくイタリアの街角を研究していると思う。「石造りの建造物の大きさ」がしっかり表現されている漫画は他にあまり例を見ない。欧風ファンタジーを描こうとする人には参考になる姿勢ではなかろうか。


参照:http://d.hatena.ne.jp/hajic/20050919/p1(GUNSLINGER GIRL3巻の舞台探訪)
参照:http://d.hatena.ne.jp/hajic/20050918/p2(18日付 モンタルチーノへのアクセス等)
参照:http://d.hatena.ne.jp/hajic/20050917/p1(17日付 晴れた日のモンタルチーノ等)


おまけ3
 


余談:
 カンパネラの町並みに関する議論の個人的総括
 http://d.hatena.ne.jp/hajic/20100830/p1