四畳半神話大系感想

 ファンサブでは『Tatami Galaxy』と訳されているらしい。なんという名訳。

 

四畳半神話大系 第1巻 [DVD]

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 ハルヒ型とでも言うべきか、とてもコンパクトな話である。鈍感を決め込む主人公のせいでどんどんグチャグチャになる世界が、告白と共にすっと落ち着く。風呂敷の広げっぷりはまさに四畳半くらいで、しごく綺麗に畳んでみせる。

 この手のきっちり終わるお話はとても好きだ。十二畳どころか地球全土を覆い尽くさんばかりの風呂敷を広げっぱなしにする作品もあり、その上でごろごろ転がることが趣味、という器の大きな人もおろうが、どうにも僕程度の小人の手には余る。


 


 圧巻はやはり最終話だろう。無限に続くらしき四畳半世界を二ヶ月強(1クールアニメだ)さ迷った主人公だが、ついに脱出が叶う。五山を背後に走り、鴨大橋で小津を抱きしめるシーンの無駄で間抜けな壮大さと来たら。

 かつて明石さんと約束した純愛映画の結末である。かたや化け物じみた女装の男、かたや素っ裸の主人公。彼女もきっと満足したものと思われる。「またアホなものを作りましたね、でも、とても良かった」くらいには言ってくれるのではないか。


 


 より印象深い、明石さんとのもう一つの約束、猫ラーメンのシーンがやけに淡泊であったのはやや拍子抜け気味だが、この場合、ラーメン自体よりも誘われることが目的だったと考えれば、あんなものかもしれない。

 なにせATフィールドもかくやという心理障壁で言い寄る男たちを排除していた彼女も、主人公にだけは常に甘かった。文通事件を見る限り、明石さんもまた白くてふわふわしたものをどこか頭の中に含有する乙女なのであろう。


 


 釈然としないのは、もちぐまんと蛾の関係である。もちぐまんという名の好機を掴む主人公に対し、明石さんの掴むものが不気味な鱗翅目というのはいかにも不公平ではないか。

「部屋から大量に飛び出した[蛾]が、主人公の迸る[我]を表しているのだ」という言説には説得力があるものの、しかし、明石さんは蛾が苦手であった。
主人公の纏うくされ理論武装が衣装と共に脱げ落ちたとすれば、いよいよ謎めく蛾の意味なのだが・・・。


 


 宗教の胡散臭さがいくら喧伝されようとも、動画を不正うpして逮捕される珍妙な神が新規登場するのがここ、八百万の神々のおわす国である。

 何より、神は細部に宿るというのだ。本作の描いた四畳半にも、ありがたき神は宿っていることだろう。そしてそれが、例えば蛾の格好をしてるとしても、もはや驚くこともない。


参考:
「これこそ傑作」四畳半神話大系最終話『四畳半紀の終わり』を見た海外の反応
 http://asnyaro.blog129.fc2.com/blog-entry-75.html