工藤直子詩集:てつがくのライオン
- 作者: 工藤直子,佐野洋子
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 1988/01
- メディア: 新書
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ライオンは「てつがく」が気に入っている。かたつむりが、ライオンというのは獣の王で哲学的な様子をしているものだと教えてくれたからだ。
きょうライオンは「てつがくてき」になろうと思った。哲学というのは坐りかたから工夫した方がよいと思われるので、尾を右にまるめて腹ばいに坐り、前肢を重ねてそろえた。首をのばし、右斜め上をむいた。尾のまるめ具合からして、その方がよい。尾が右で顔が左をむいたら、でれりとしてしまう。
ライオンが顔をむけた先に、草原が続き、木が一本はえていた。ライオンは、その木の梢をみつめた。梢の葉は風に吹かれてゆれた。ライオンのたてがみも、ときどきゆれた。
なんにでも因果律を押しつけるのが好きな性分で、現代思想なんておしなべてカトリックへのヒステリーくらいに思ってる僕ですが、てつがくは気に入っています。こう、諦める理屈というか。最初からダメなものに、よさそうな理由をつけてみる手段というか。でも、浩瀚堂さんが
白黒をはっきりさせるべきであろう。我々は他人を救うほど強くはない。我々はあまりに無力である。我々は独りで生き、そして独り死ぬのだ。
と白黒はっきりさせたり、
哲学は自己自身が本質的に未確定なものであることを知っており、善良な神の小鳥としての自由な運命を喜んで受け入れ、誰に対しても自分のことを気にかけてくれるよう頼んだりもしなければ、自分を売り込んだり、弁護したりもしないのである。哲学がもし誰かの役に立ったとすれば、哲学はそれを素直な人間愛から喜びはする。しかし哲学は他人の役に立つために存在しているのではなく、またそれを目指して期待してもいない。
とオルテガ・イ・ガセットなる人物の言葉を引用しているのを見ると、あながち僕のてつがくも間違ってるわけじゃないんじゃないかなあ、などと一人満足してみたりも。
ともあれライオンとかたつむりが見た、とても美しくてとても立派なてつがくが気になる人は、ぜひ本書を手にとってみてください。工藤直子は素晴らしい詩人です。