おたく学入門

オタク学入門

オタク学入門

「もし日本が地球上から消滅しても文化的に困る人は世界には誰もいない、ただしアニメとマンガについてだけは別だ」という分析は素晴らしいと思いました。おたくという生き方が存在する、という著者の主張には若干ついて行けないものがありますが、日本人のそのお人好し加減以外で世界に対するユニークなアピールになるものはアニメとマンガだけでしょう。
工業技術があるじゃないか、スシやティーセレモニー、ZENがあるじゃないか、という人もいるかもしれませんが、技術に関しては上手な猿まね、スシは不味いファーストフード、グリーンティは砂糖を入れたらかろうじて飲める、ZENは中国原産の怪しいカンフー、くらいの認識です。一種のトリビア的知識であって、好意的な歓心を誘うものではありません。
好意的な歓心を呼ぶユニークさは、それを起点にあらゆる側面に好意的な印象を与えるものです。あばたもえくぼ因子と言った方がわかりやすいかもしれません。そして今現在、日本が世界に対して持っているそれは、諸刃の刃であるそのお人好し性を除けば、恐らくアニメとマンガだけです。その部分を明確に指摘した本作のメインカルチャーサブカルチャーのくだりには、一読の価値があるでしょう。
その帰結としての限界、すなわち、「日本は西欧のメインカルチャーに対し、全く影響力を持たない」という現実認識こそ、冒頭に引用した(あまり希望に満ちあふれているとは言えない)著者の分析を裏付けるわけですが――身の程を知ることは重要ですし、それを踏まえてこそ、将来への堅実な指針も立てられるというものではないでしょうか。おたくのアイデンティティ云々を飛び越して、国際戦略的に重要な示唆を含む一冊だと言えます。
(そう考えてみると、案外、「おたくとは何か」という一時ブームとなったテーマは、ずっと大きな意味を持っているのかもしれません)