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再びサンベネデットの駅からインターシティでスッザーラへ。午後四時発の列車は炎天下息も絶え絶えという感じながらかろうじて空調を効かしていたが、リッチオーネからどっと入ってきた海水浴客の群れについに音を上げたらしくただの温風に変わる。
例のごとく座席指定をしていなかったので「どこかで席が空くだろう」と期待していた僕の目論見も水泡と帰し、五時間の満員熱気電車の旅となる。
最初はそれぞれぶつくさ言っていたイタリア人たちも、いよいよコンパートメントを結ぶ通路がぎっしり人で埋まるとなると「もうこの客車入れないよ」と一致団結して新しい乗客の侵入を防ぎ始める。こいつらwww
一方突然「もう嫌よ、私は一等席を予約してたの。どうしてこんな二等車で立ってなきゃいけないの」と騒ぎ出したご婦人はやれ窓を開けろ暑い(空調設備がある列車は窓の開く可能性がぐっと下がる、ご注意)だの、ボルツァーノオーストリア国境の町、遠い)まで行かないといけないのにこの仕打ちはゆるせないわだの、まわりの生暖かい視線の中散々主張したあげく、ついに演説を始めた。
「イタリアの物価上昇は常軌を逸してる、そこで私たちは今こそ団結して15日間の一斉不買デモをすべきであり、ジャガイモとパスタさえあれば30日は生きられる、特にバカ高いコーヒーなど絶対に飲むべきではない」云々。もとより狭くて暑い客車内はもうどうにでもなれという感じのニヤニヤ空間である。
「そうでしょ?」とここでいきなり僕にお鉢が回ってくるとは思わなかったので日本人としては「うん」とうなづくしかなかったのだけれども彼女はいたく満足したらしく「彼は知性的だ、物事がよくわかっている」とべた褒めした。なんだかなあ。
なんとかモデナに到着、駅前で迎えの車を待っていると一人の男が近づいてきてタバコをくれという。手巻き式しかないけれどいいかと聞いたらもちろんと言っていそいそと受け取る。普通手巻きは面倒がって「じゃあいらない」という人間が多いのだけれど、彼は本当に吸いたかったらしい。
露骨に物取り風の彼は南部カラーブリア出身で、ここ北部じゃみなケチでタバコさえ分けてくれない、南じゃ月500ユーロもあれば家族五人幸せに暮らせるんだがなあとぼやいた。なんかいいやつである。
あるいはどのタイミングで荷物に手を出してくるかと見ていると彼はいきなり別の男と因縁を付け合い始め、しかもその男がドラッグでふらふらの大男と来たものなのでまったく話にならず、僕と顔を見合わせて「またね」と別れる。
ああ、北部イタリアで生きていくのは彼にとってしんどそうだ。カラーブリアで仕事が見つかるといいのだけれど。
あと、夜のモデナは最近本当に物騒らしい。旅行者は最悪バール内か警官待合所付近で危険に備えましょう。