Ora Pro Nobis

Salve Regína, Máter misericórdiæ, Víta, dulcédo et spes nóstra, sálve.
Ad te clamámus éxsules fílii Hévæ.
Ad te suspirámus geméntes et fléntes in hac lacrimárum válle.
Eia ergo, advocáta nóstra, íllos túos misericórdes óculos ad nos convérte.

8月15日。終戦記念の日。この日が来ると長崎浦上天主堂を舞台にした永井隆の小説『長崎の鐘』を思い出す。1945年夏、昭和20年8月9日午前11時2分、B29の腹から投下されたファットマンは谷がちの長崎の街を焼く。ザビエルによりその守護聖人とされて以来日本という国を見守る聖母、嘆きの母マリアに献げられた浦上天主堂もまた甚大な被害を受け炎上、聖堂脇に同じく被災し壊滅した女子修道院、その瓦礫の下からのロザリオの声が、数日後静かに途絶えたのち、黒い雨の中、終戦の玉音に合わせるかのように激しく崩れ落ちた。残ったものはほぼファサードのみという被害の中、けれど不思議とアンジェラスの大鐘は無傷で発見され、今も聖堂の鐘楼で長崎に時を告げているのだと言う。奇しくも聖母被昇天に重なる終戦の日。それは60年以上が経てもその罪と、深い傷跡に悩み続けるこの国を、物言わぬまま見つめる慈愛の視線を、僕に感じさせてならない。