『リセット』

リセット (新潮文庫)

昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。
だが、わたしには今がある

「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います」と呟いたのは著者自身だった。真理子から始まった情け容赦無き物語は、真希を経て真澄、そして真知子へと、”ただ一度きり”はその度を強める不思議な繰り返しを経て、帳尻を合わせられていく。『スキップ』の提示した、あまりに苛烈な真理に耐えかねる人のために、北村薫宮部みゆきに「やさしい時」と言わせる世界、悪意の漂白されたが如き約束の運命をついに生み出した。けれど、それでも、人の生は一度きりなのである。その夢のような”繰り返し”の終わりに、『リセット』という皮肉な名を付けた著者は、やはり限りなく残酷で、そして偉大だと思う。なぜなら、目に見える物語に幕が下ろされたその時こそ、物語はその名の通り”つぎ直され”、澄み渡る知は確かな希望を通して、もう一度、本当に信じるに足るものに至り得るのだから。

「仮に歯を食いしばろうと、失われることのない軽やかな足取りに他ならない。動かせない。了とされたい」