星空の街


ラヴェンナ再訪。アドリア海に面したボローニャ県の地方都市で、かつてはボローニャ配下の主要な港街として栄えた時代もあったものの、足場の悪い沼沢地域に無理やり港湾施設を建築したのが災いし街ごとズブズブと沈降、衰退した。殆ど地面に埋没した一階のアーチ、水に浸かった納骨堂等、現在残る建築物にもその名残は顔を覗かせる。

往時の繁栄とその文化レベルはこの街の特色でもあるモザイク壁画に代表され、ビザンツ帝国との交易の過程で流入した東方美術の粋が街の各所に見受けられる。こと聖ヴィターレ聖堂の建築及び壁画は素晴らしく、これ以上なく地味な概観からは信じられない内部の美しさは、その立体性と相まって感嘆のひと言。

複数の階層で構成された内部構造が生み出す複雑な視像のレイヤーと、それらへの光の反射は、視線の位置及びその角度により常に新たな物語を紡ぐ。間口より一歩進むごとに展開されていく頭上の世界の物言わぬ緻密さは、金色に美しく輝くモザイクたちが現す場面の意味を、言葉よりも雄弁に物語る。そうモザイクではなくその構造こそが、この教会の真髄ではないか。

そんな教会美術の生み出した表現方法は一種収束型のADVに似ている。壁面に、あるいはステンドガラスに描かれた幾つもの物語を読み進めて行く視点は、ある時点で不意に行き詰まり、否応なく頭上を見上げることとなる。複雑な立体構成を持つ天井と、より高みにある天蓋の果てが多重に織りなす天上の世界の中心に、それら描かれた全ての物語は収束され…

つらつらと思いながらそぞろ歩きするラヴェンナの街は、極めてのどかな歩行者天国で、道行く人々の仕草も心なしか平和に見える。ショーウィンドウの展示も都会のカットと田舎のレースの素敵な均衡。なんと言うべきかある種の結末が転がっている街で、それが良かったのか悪かったのか。機会があればまた訪問してみたい街の一つ。