メルロ・ポンティとADV 5

それは「ノアの方舟が生き物たちを洪水から守ったようにすべての個別的な存在者を無に沈みこませないように高く支えている大地」としての原-方舟(Ur-Archeである

コペルニクスの地動説により、宇宙の中心としての大地という概念は世界から失われた。それはすべての視点や位置を相対化することで近代科学の覇権を導いたが、このことは同時に近代科学及び近代哲学における「上空飛翔的思考」の蔓延という不幸ももたらしたのである。つまり遍在的な視点の獲得(という錯覚)は皮肉なことに、視点そのものの位置を不明にしてしまったとも言える。メルロ・ポンティはフッサールが試みた根源的大地の回復、すなわち「コペルニクス以前の経験」の復権を目指した。それはすべての経験の土台であり、すべての意味を映し出す地であり、すべての行為において信頼すべき前提である。