シンフォニック=レイン

シンフォニック=レイン DVD通常版
驚くことはない。あなたは全世界を背負っていたのだ。
私は、あなたが探し求めていた――

少なくとも、これだけは言える。『シンフォニック=レイン』とは、何だったのか。
それは、「クリスが彼の本当のココロに気づく」という、ただそれだけの物語である。

クリスはただ、「事故」だけを忘れていた。それだけは思い出すわけにはいかなかった。彼は「僕はアルが好きだ」ということを覚えていた。それだけは忘れるわけにはいかなかった。なぜ? クリスが本当に認めたくなかったもの。それは「アルの事故」ではなく、「アルがいなくなれば、トルタを選んでしまうだろう自分」ではないのか。アルへの想いの否定こそを、彼は最も恐れたのではないか。だからこそ、フォーニへの愛がトルタへのそれを上回った(と少なくとも彼が思った)時”のみ”、彼は唐突に、自発的にあの「事故」を思い出す。

だがそれは、それ故に、トルタに対するあまりにも辛い仕打ちだった。彼が「事故」を思い出したと聞いた時、トルタは間違いなく、クリスの獲得を確信したことだろう。しかし、実際はそうではなかった。彼は「もうどこにもいないはずの」彼女の姉に想いを寄せていた。そしてクリスが「事故=アルは意識不明」を思い出した以上、もはやトルタから手紙という手段は奪われている。彼女に残された、クリスへの愛のための最後の手段。それは、彼女自身が、完全にアルに成り変わり、「目覚める」ことのみ。

ではなぜ? なぜ彼はそこまでして、「アルを好き」でないといけなかったのか。それはクリスが、パートナー選びを最後まで引き延ばしていたことからも覗える。彼は と て も 臆 病 で、 自 分 が 本 当 に 好 き な 誰 か を選べない。愛とはすべて投げ出すこと。けれどクリスのそれは、一見そのように見えて、その実「与える側」として、常に相手より優位に立とうとしている。だからこそクリスには、「自分がいないとダメそうだ」と彼自身が思った人に身を捧げてしまう悪い癖がある。つまるところ、彼がトルタよりフォーニを選んだとき、彼はまたやってしまったのだ。かつてと同じことを。