反哲学史

反哲学史 (講談社学術文庫)
見えるもの、聞こえるもの、感じるもの、そのすべてを疑うこと。
そこにはなにか、残るかもしれない。なにも残らないかもしれない。
でも、どこかその先に、本当のことはあると信じたい。だから


世界はあまりに不確かだ。どうして世界はこんなに理不尽で、こんなに悲しみに満ちているのだろう。人はずっと悩み続ける。移ろいゆく全ての儚い事柄の向こうに、確固とした万物の源を探そうとした古代。「絶対に正しい」神の創りたもうたはずの世界が、なぜかくも理不尽に満ちているのかに苦悩した教父たち。神による絶対的運命的支配を否定し、人間自身の理性を世界の中心に置こうと、世界の存在の証にしようと試みた近世。だが我々はその結果、神という絶対的存在の確信を――我々自身の存在確信の、絶対的な後ろ盾を失った。そして、唯一残された「絶対理性」による確信さえ、人は自ら否定してしまう。
絶対的存在。それは降り続く悲しみから逃れるため、人々の祈りが生み出した、あまりに美しく、切ない虚偽。だが今や、人はそれら全ての羊飼いを失った。そんな迷子の我々が生きる世界に、確かなものはあるのだろうか?