シンフォニック=レイン トルタはなぜ





トルタはなぜ、クリスを騙せたのか――
そして、フォーニエンドにおいてアルになってしまったのか――についての、以前の私の解釈の修正。それは「どうしてクリスは”恋人”と”その妹”の差なんて重要なことを見分けられなかったの?」という疑問に対する答えでもある。
id:hajic:20050212#p1を参照)

普通は見分けるでしょう。バレるでしょう。それはなぜだったか。それはつまり、彼女らが本当に二人は一人だと思っていて、でも互いの足りない部分を補い合っていて――つまり二人ともに相手の弱点も行動も考え方もほとんど全部わかっていたから、トルタはアルになりきってクリスに会えたし、アルの気持ちそのままの手紙を書くことができた。読者も騙した。端的に言えば、そう言うことだと思う。


トルタが言っていたセリフ。「クリスのことを思って、嘘に嘘を重ねて書いた手紙は、そのほとんどが真実で、嘘は少ししかなかった」。その嘘とは何か。おそらく「自分がクリスの思い人、アルではなく、トルタだということ」だけ。彼女はアルではない。しかし、トルタの書いた嘘はクリスへの愛そのもので、それはアルのクリスへの想いそのものだった。少なくともトルタはそう確信していた。トルタは、アルのことを全てわかっているつもりでいた。まるで、自分のことのように。

SR本編からは、正直なところ、アルのこと、彼女が何を考えていたかは、わからない。ただ、トルタの言うことが真ならば、SR本編からのみの推測でも、二人はほぼ全く同じようにお互いを知っていたことになる。そしてそんなトルタがアルになりきって書いた手紙は、それこそ本当にアルの手紙そのものだったに違いない。

だから、トルタルートでのあの手紙の文面、「トルタを信じてあげて」というアル(トルタ)の言葉、それはまさにアル(フォーニ)の持つ想いだったはずなのだ。そしてその願いは、alfineのラストで、ついに叶えられる。アル=フォーニは満足して去り、物語はちょっと切ない大団円を向かえる。


まとめ
■彼女らは元々「二人で一人だと思って」いて、さらに「互いの足りない部分を互いに補い合っていた」。互いの足りない部分(=弱い部分)を補い合うためには、互いの弱点を知り尽くしていないといけない。それはつまるところ、二人は互いの内面までを知り尽くしていた(と思っていた)ということになる。

■そして、少なくとも、そう主張していたトルタ(実際のところ、SRに生きたアルは登場しない)は、それを根拠にアルに化け、実際アルの”恋人”であったクリスをすら、あそこまで騙し抜く。その事実こそ、「私はアルのことを、まるで我が身のように知っていた」というトルタの主張を裏打ちするものだと考えて良いだろう。

■トルタはなぜ、アルになってしまったのか
以前の私の「トルタはアルと同じだったから、アルになった」という説明を撤回。二人はけして同じではなかった。ただ、

「二人は互いのことをよく知りすぎていたために、相手になりきることができすぎてしまって、その結果、(少なくとも)トルタは自分がどちらだかわからなくなってしまった」

そう、二人は同じだったのではなく、「同じになることができた」のだ。物語の結末、alfineにおいて、トルタはその過ちに気づく。彼女はクリスに向かい「私はトルティニタ」と宣言し、確固とした自分自身を得ることができた。しかし、フォーニルートにおいては、彼女は自分自身の存在を確信できなかった。それ故に、フォーニエンドにおいてトルタは、本当にアルになってしまう。