朗読者

朗読者 (新潮文庫)
最初は、自由になるために僕たちの物語を書こうと思った。しかし、執筆しようとしてもなかなか思い出がよみがえってこなかった。物語が逃げていってしまうようで、書くことでそれを取り戻そうとした。しかし、思い出を誘い出すことはできなかった。僕は自分たちの物語をそっとしておくことで、何年か前に物語と仲直りした。すると、物語がよみがえってきた。次々と細かいできごとまで、いわば完全な形で、僕をもう悲しませないように、きちんと完結し、整えられて。なんて悲しい物語なんだろう、と僕は長いあいだ考えていた。いまではそれを幸福な物語とみなしているというわけではない。しかし、いまのぼくは、これが真実の物語なんだと思い、悲しいか幸福かなんてことにはまったく意味がないと考えている。

最初は、理解するためにあらすじを書こうと思った。しかし、やっぱりわからなかった。 



■あらすじ
病弱な15歳の少年ミヒャエルは、謎の女性ハンナに惚れた。肉欲の日々。その合間に、彼女にせがまれるまま、彼は様々な本を朗読する。しかし、やがて快復した彼は、学校の友人関係へと生活の重点を移していく。そんなある日、ハンナは失踪する。数年後、法学の実習でナチ戦犯裁判を傍聴したミヒャエルは、あろう事か被告の中にハンナを発見した。なぜか自分に不都合な証言をするハンナに疑念を抱いたミヒャエルは、彼女が実は文盲であることに気付く。彼女の秘密と引き替えに、彼女を弁護するべきか否か悩むミヒャエル。彼は後者を選んだ。ハンナは無事に秘密を守り通し、終身刑を命じられる。大学院に進学したミヒャエルは、学友のゲルトルードと結婚するが、数年後に離婚。彼はハンナに朗読テープを送ることを思いつく。18年後、ハンナに恩赦が与えられる。刑務所長から彼女の世話を頼まれたミヒャエルは、準備万端整えて彼女の退所日を迎えたが、まさにその日の朝、ハンナは自殺した。

■感想
アマゾンでの評価は非常に高かったが、正直に言ってあまり面白い本ではない。海外で評価が高かった理由なら、わかる気はするのだ。愛した女性がナチ戦犯だったら、というテーマは、彼らにとってはよほど衝撃的なものに違いない。しかし日本人としての私のナチスと彼らの罪に対する感慨は、欧米人たちのそれとは全く異なる。また、恋愛小説として読んだとしても、あまりに淡々とした描写は、感情移入を拒否するかのようだ。ハンナはなぜ死んだのか、私にとってこの問いだけが、かろうじて心に残る。何か読み方を間違えたのだろうか。