飽きずにAIR

Air
AIRあらすじ。せっせと書いたのでこっそり公開。AIRが「感動の名作」なんかじゃない理由。

■DREAM編■
旅費の乏しい国崎往人が立ち寄ったのは海沿いの小さな街。母親から受け継いだ法術で子供に芸を見せるも大不評。ついに行き倒れ、通りすがりの神尾美鈴の家に居候。友達がいない観鈴を心配する母晴子は往人をしぶしぶ受け入れた。楽しい団欒。しかし誰かと仲良くなりかけると原因不明の発作を起こす観鈴。往人も例外ではなく、平穏はあっさり失われる。観鈴が日々衰弱していく中、晴子は言い訳するかのように自分が観鈴の実母でないことを往人に告げ、失踪。観鈴の病状が致命的なことを悟った往人は、母から伝えられた秘法を使用し観鈴を救うも、代償として彼自身は消え去る。

小さな街のくせにそんなハイカラな制服の高校がありますか。ロザリオを付けているあたり私学なのは間違いない。一体どこにそんな街が基幹商工業は何だ等々、色々気になるのはさておき。DREAM編では観鈴の病状が「誰かと親しくなりすぎると発症する発作」とされていて、実際彼女から離れてしまうという結末もあるので、昏睡から目覚めた観鈴が往人を探すシーンは大変切ない。本当のところ観鈴は神奈の魂を受け入れる依代であり、往人が側にいようが居まいがいずれ崩壊する定めなのが判明するのはSUMMER編以降。往人が怪しい術を使える理由の説明も同じく。


■SUMMER編■
話は平安時代に遡る。翼を持つ一族(=翼人)の末裔として都に軟禁されていた神奈。何処かに封じられた母に会いたいという彼女の願いを叶えるため、衛士の柳也と内侍の裏葉は神奈を連れて高野へ向かうが、後一歩の所で事が露見。彼らをかばって母は倒れ、柳也と裏葉を逃がすべく、囮となって空へ舞い上がった神奈もまた、僧侶たちの強力な呪詛により滅ぼされる。からくも脱出に成功した柳也と裏葉は、いつの日か神奈を救うことを心に期し子をなす。

観鈴を苦しめていたのはなんと坊主の呪いだった。そんな馬鹿な。ちょっと待ってくれと言う気分のSUMMER編、実はけっこう人気が高い。いや楽しいけど、しかし坊主の呪いとはなあ。観鈴の秘密(どうやら神奈の生まれ変わり)と往人の秘密(法術使い裏葉の子孫)の間の宿命の構図が明らかに。神奈の魂は定期的に現世へ転生するが、キャパの関係で依代(今回なら観鈴)は崩壊してしまうのだった。さらにたちの悪いことに、観鈴に近づきすぎた人は弱って死ぬらしいことまで判明。ああどうしたらいいんだ。読者をじりじりさせた辺りで物語は再び現代へ。


AIR編■
お話は往人が観鈴に出会う頃に戻る。暑い暑い夏の日、堤防の上で寝ている往人、彼に声をかける観鈴。一見DREAM編の冒頭とそっくりだが、確実に違うのは選択肢が全くないこと、そして主人公だった往人自身が画面に登場すること。なぜなら読者はカラスなのでした。いや本当に。坊主の呪いからカラスに変身、和製メルヘン極まれりなAIR。以後読者はカラス視点でひたすら傍観者となります。なお鳥頭なので見るだけ食べるだけ、気分は鷲に化けすぎたゲド。

そんなことより観鈴を救わなきゃいけないから帰って来たはず。でも人間ならまだ、毎日ピアノの練習をしてみるとか、二人とも誘うとか、庭で黒猫に会うとか、色々手はあるけどカラスではなあ。食っちゃ寝食っちゃ寝しててもどうにもならない、ああ私の存在には一体何の意味が。読者がいくら悩んでみても相手はカラス、実存的懊悩とは一切無縁にエサを食べている。往人が神尾家に居候し、ラーメンライス、観鈴はどんどん弱る。晴子が逃げ出す。往人が消滅し、
観鈴が目を覚ます。逃げ出したかに見えた晴子、実は観鈴を自分の娘として引き取れるよう親族と交渉していたのだった。観鈴から逃げていた自分を悔いる彼女は見違えるような献身ぶりを示すが、いまだ解けぬ呪いにより再度衰弱していく観鈴。だが往人は既にいない。「海へ行きたい」という願いが叶ったその日、観鈴は晴子に抱かれたまま死ぬ。

おお みすずよ しんでしまうとは   .ここに至り、読者はもうびっくりするしかないのでした。主人公も主人公が命を捧げて救ったヒロインも死んでしまうなんてエロゲーがこれまであったでしょうか。これは文字通り完全な悲劇。ザオリクがないので復活も効かない。読者はまだカラス。そしてお話は本当にほぼそのまま終わってしまう。わけのわからないエピローグだけを残して。

観鈴亡き後、晴子に飛んでけと言われたカラスが空に舞い上がり、手をつないだ少年少女が現れ、呟く。「彼らには過酷な日々を」「そして僕らには始まりを」「無限の終わりを目指して。さようなら」。エンドロール…

主観で解釈すれば、「神奈に坊主がかけた呪いを解く≒ 神奈の霊魂を成仏させる」ためには神奈(の転生者)を充分に幸せにするしか手はないので、柳也の子孫たちは千年かけて「神奈幸せ作戦」を実行したあげく、ついに往人の代で成功。「最後の神奈=観鈴」は、往人共々成仏しました、めでたしめでたし。というお話だと思うのだけれど、やるせないよなあ。両方死んじゃってるじゃん。呪いがかけられた時点で神奈は滅んでいるのだから、単純にハッピーにはできないのは分かるけれどもねえ。嫌だ嫌だ。そんなわけで、私にとってのAIRとは、いろんな意味で「悲劇」ではあっても、「感動の名作」ではありません。



注:DREAM編にはサブシナリオ2本あり…美凪*1 佳乃*2

*1:美凪シナリオ
いつも駅舎で姉妹の様に遊ぶ美凪とみちる。だが本当のみちる、美凪の妹は既に死んでいた。そう彼女は、現実を拒絶し、美凪をみちると呼ぶ母の姿に耐えかねた美凪の想いによる幻像なのだった。なぜ?この街では不思議なことが起こるから。母と向き合う決心をした美凪を見届け、みちるは消える。往人は去る。

*2:*佳乃シナリオ
いつも手に巻いているバンダナは佳乃にとってのトラウマの象徴だったので往人が何かしてめでたしめでたしだったと思うのだけれどあいにく記憶にない。もう一度やり直す気力もない。神社のご神体は輝く羽だと言うことが明らかになる。ぴこぴこ。比較的脳天気かつ一般的なシナリオだった気がする。