サルでも描けるまんが教室

サルまん 上―サルでも描けるまんが教室 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) サルまん 下 新装版―サルでも描けるまんが教室    BIG SPIRITS COMICS SPECIAL
竹熊健太郎及び相原コージの手になる創作の内部において、彼ら二人の様ではあるが、しかし彼らそのものではない彼らの分身「竹熊博士」と「相原先生」は、彼らのさらなる分身である二人の疑似キャラクター、「竹熊21歳」と「相原19歳」を生み出し、そんな彼らはさらに下位の存在としての『とんち番長』という物語=世界を創造し、また語る。彼らによってなされる現代漫画の成り立ちや分類、それぞれの歴史や思想!の変遷の紹介と共に、『サルまん』は次第に複雑なその構造を現し、ついに『サルまん』とは筆者をも含んだ階層構造を持って成り立つ多重世界の物語であることを読者に痛感させる。ここ至り、本作は読者としての私たち自身にまで実存という問いを投げかけるだろう。とは言え、この多重に折りたたまれた入れ子世界は、創作の位階としては明らかに序列を持ちながら、にもかかわらず時として上位のそれに影響を及ぼすのである。歴史と思想の分析と実践の物語の内に、作中人物は作者=神の意図に操られながら、時に静かに、時に激しく、しかし着実に、やがてその軛を脱して行く。そう、ハウツーものの仮面を斜にかぶって始まるこの作品とは、実のところ漫画史における哲学史、漫画版『ソフィーの世界』と言えるだろう。
だとかなんとか胡散臭い屁理屈もこねられそうなぐらいによりどりみどりな楽しみてんこ盛りの傑作。これは本当に凄い。戦後日本にて著された書物の中でベスト100には間違いなく入る。ハイデガーもびっくり。