『三四郎』 詩は絵のように

ISBN:4101010048
今更何を言うまでもない夏目漱石の名作。東京帝大へ通うべく生まれて初めて上京した弱冠23歳、青年小川三四郎を主人公に巻き起こる愛と青春の物語。愛もあり青春もあるが実際あまりスペクタクルはない。スペクタクルはないのでふとするとさらさらさらりと淡泊に読み終わってしまうのだが、ゆっくり読めばこれはもうなかなかに行間は示唆だらけ、冗談かと思えばひょっこり詩的で見事に情景が映える。しかし何よりも、その奥底に暗い暗い深淵、『猫』結末付近にて「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする」と語られた漱石終生の渇望を抱えながら、憂鬱に沈まず軽薄にも転ばず、あくまで爽やかに青春を描き出したところにこそ『三四郎』の魅力がある、と私は思う。
それにしても夏目漱石という人はどこまで博識なのか。次は一万円札にするべきだ。