スティーブン・キング 『スタンド』

ザ・スタンド 5 (文春文庫)
前半はあんなに面白かったのに後半がぐたぐた。キングの駄作のパターンである。もしかするとキングという人は超自然的な存在を超自然的なものとして描けない人なのかもしれない。つまりそれが当初、どんなに謎めいた、あるいは神秘的な意識体として作中に表れたとしても、まもなく彼は「ただの悪いおっさん」化してしまうのだ。言うなればお化け屋敷にマーブルスーパーヒーローズの悪役が出てきたみたいなもので、ちっとも怖くないというかいろいろと台無しである。
とはいえよく考えたら、「謎めいた神秘的な根源的な悪の力」なんてものを描写するのは至難の業だし、そんなのに人間が勝とうとすればおそらく「親切なおじいさん」的な、善なる神のサポートが必要だろう。しかしキングの世界にはその手の親切な意識体はあんまり登場してこないので(せいぜい『シャイニング』の老黒人程度)、やはり打倒されるべき悪はいくぶん間抜けなおっさんでなければならないのかもしれない。あんまり完璧なものが敵に回ると、あっさり悪が勝ってしまってたぶん収拾に困る。
にしても、やはり「悪いおっさん」がちっとも怖くない事実は変わらない。だからキングさん、悪役にはどうか、狂気に満ちたただの人間を配置してくれませんか。「謎めいた悪の力」を直接描写するのは果てしなく難しいとしても、あなたの「狂った人間」描写力は間違いなく折り紙付きなのだし。