俺たちに翼はない

俺たちに翼はない -Limited Edition-

俺たちに翼はない -Limited Edition-

 紹介するための気力の涌く創作は限られていて、その気になれるエロゲはなおさら少ないのだけれど、『俺たちに翼はない』は久しぶりにちょっと面白い作品だった。


 
 明日香は主人公の解説に一番近いヒロインなのだけれど、どうも扱いがぞんざい。現象の説明にはなるけれど原因不明という。


 
 日和子編、最も独立したパート。年下の上司、しかも異性なんて厄介な職場を経験したことがあれば面白さはより際だつ。


 
 鳴。物語がそろそろぶっちゃけ始めるのに合わせてヒロインもぶっちゃけて来る。声優の演技がぼけぼけ系で独特の雰囲気。


 
 小鳩。主人公の秘密に一番近いヒロイン。それぞれエッジの立っていた前三人と比べると、どうも魅力がパッシブに見える。



感想
 数本のルートが収束していくタイプの、いわゆる(無理やり命名するなら)Kanon型。ただし、本作はそこから少し捻ってくれる。驚愕のトリックという程ではない。ほうほうなるほどと嬉しくなれる程度。


 声優は良い仕事をしている。お酒が入って無闇にテンションの上がった知人のかけ合いを眺めてるみたいな面白さに近い。眺めてるみたいな、というのが実は伏線で、最終的にはかなり面白い視界が広がる。この見せ方は斬新だと思う。


 そこでメインヒロインの存在が謎だ。話のいきさつ上、彼にとって彼女が最も重要なのは仕方ないとして、どうも読者との間に齟齬が出やすい構造だろう。最も物語から自由な場面の後に、最も物語に制約されてしまう展開が待つのは少し窮屈に感じた。構成ミスだと思う。


 一時学園もの作品を席巻した、後半のチョンボ展開がないことを特記したい。クライマックスのあるべき位置に読者をウンザリさせるだけの展開の配置を教則みたいにしてたあの時代は、一体なんだったんだろう。未だにわけがわからない。



総評
 
 正統進化学園もの。エンターテイメントとして手に取るに値する。伏線の難易度も適切なレベルで快適。何のトラウマを刺激するようなこともない、明るく朗らかな娯楽作品。愉快な漫画シリーズを一つ読み終えるくらいの満足感を得られる。久々に満足した。


 ただしもう少しサービスシーンが多くても良かったのではないかとは思う。