アイドルマスターSP 所感

 
 アイドルマスターの最大の武器だと思われていた、超美麗な3DCGという要素を投げ捨ててPSPに新作を投入したバンダイナムコ。結果はご存じの通り、初週で約13万本、L4U累計売上(6.3万本)の倍の数値を叩き出しています。奇しくも同時期に箱○でリリースされたスターオーシャン4は17万本強を販売して箱○の初週売上記録を更新、「箱○だから売れない」という言い訳がもはや通用しないことを証明しました。

 実際、アイマスSPを手に取ったプレイヤーは感じていることでしょう。アイマスSPは楽しい! 「アイドルマスターとはこんなに遊べるゲームだったのか」という声が、各所から聞こえてきます。ひたすら綺麗な画面を求めるよりも、ゲームとして楽しめるソフトを望む潜在ファン層の獲得を画したバンナムの判断は、見事な結果を導きました。その信念、その行動、その成功に、僕は心からの賛辞を贈ります。

 大いに高められたストーリー性も、また評価されるべきでしょう。予備知識のないファンの受け皿として丁寧かつ王道的な展開を見せるパーフェクトサンはもちろん、そのビジュアルで多数にアピールする雪歩や、固有のファン層を持つ釘宮理恵担当の伊織を擁するワンダリングスターには、貴音という新キャラを配置して新しいアイマス世界を提案し、ミッシングムーンでは美希と千早のかけ合いに象徴される、緊迫した、しかし根の明るいドラマで、エンターテイメントとしてのアイマスの実力と方向性を示しました。

 美希の移籍に関して予測を巡らし、事前に補完のストーリーを組み上げたファンコミュニティにとって、SPが明らかにした「真相」は満足行くものではなかったとしても、そうした反発の予想されてなお物語の枠組みを強化し、路線を規定したバンナムの判断が全体として機能していること、なにより、不人気とされていたキャラクターの躍進を導いたことを、無視することはできません。それは比較的アクが強く、多数にアピールできずにいたキャラクターたちに、生き生きとした存在感を与える文脈となりました。

 アイマスSPは、これまでアイマスを支えた世界から、意識的に踏み出した作品です。以前のアイマス世界を愛する人間にとって、そのすべては受け容れられるものではないかもしれません。けれど、アイマスがファンの固定化と拡大の限界、当然導かれる市場の斬新的縮小に直面していた以上、この冒険は必然であったと言えます。変わらなければ先はない。そう判断した作り手の選択を、そしてそれを喝采を持って迎えた市場を、従来のファン側はどのように受け止めるのでしょうか。


補記:
 伊織、亜美真美、雪歩の三名が含まれ、事前人気の最も低かった(販売本数もミッシングムーンに僅差で最下位だった)ワンダリングスターが、SP勢で唯一2月17〜23日間の秋葉原中古市場ランキング上位10位に登場せず、間接的に最大の顧客満足度を示していることは、非常に興味深い出来事です。その核に反則的な新アイドル「四条貴音」を擁するワンダリングスター、そこで展開される不思議な、あるいは従来のイメージを超越した物語が、新旧多くのプレイヤーの心を捉えたことは、大いに注目されるべき点だと思います。