スィーツ芦屋日記

 スペイン人の青年司祭が帰国して、寮はすっかり静かになった。
 日系ブラジル人の寄宿生を捕まえて近所のDIYショップに日勤していたらしく、確かに僧衣姿より土方服で壁のペンキ塗りをしている姿をよく見た気がする。
 彼のたてるラテン語のミサは時折イタリア語になり、ワインは率先して三杯以上飲むなど、ローマの神学校に8年通うことへの若干の危惧を皆に抱かせていた他は博識な好青年で、僕にとっては良い飲み相手兼イタリア語の練習相手だったので、なおさら残念でならない。

 「ほんまもののビール!」と某酒造メーカー研究員の寮生が大喜びしたのは、どこからかの差し入れでキリンスーパードライが数ダース冷蔵庫に入った日の晩である。一方、飲み相手話し相手をなくした僕は一人晩酌にいそしみすぎて自室の階数を間違え、偶然にもビルの五階から屋上に出られることを発見した。
 周囲の豪邸に遠慮なくそびえるビルなので、一帯の夜景が綺麗に見える。パルマでもアパートの屋根に登っていたことを思い出したり、煙と何かは高いところが好きとか考えたりしているうち、教会の鐘のかわりに列車の音が響く芦屋の夜は更ける。