劇を見た

観劇するというのは実は生まれて初めての経験だったので色々興味深かった。会場は意外と狭くて中学校の教室くらい、縦半分に割って、手前にひな壇のようなものがしつらえてある。向かい半分が舞台になり、開幕後(というか幕はないけれど)客席は舞台から見て窓ガラスの外の湖という設定。
脱サラしてひなびた田舎でペンションを始めた夫妻とその娘に元部下、大学剣道部の男三人に女子部員一人、株長者と女子高生のカップル、スランプ中の大作家とその女性編集者、50過ぎてまだシスコン気味の兄とその未婚の妹、浮気性の母とその娘、近所のおばさん。登場人物がたくさん。
で、それぞれがそれなりに人生の悩みを抱えているわけだけれど、その悩みはだいたい恋愛の関係と仕事の問題で、ネット小説みたいだなあと(読んだこともないのに)少し思った。まあやるせない思いは人それぞれ様々な次元で抱えている
だろうし、むしろその辺で悩まない人の方が珍しいというか、ちょっと偏屈なのかもしれない。などとも考えつつ。
役者さんたちはビギナーズと自称するくらいだから、本職の人というのは少ないのだろうけれど、あちこちでくすくす笑い声が漏れる熱演はとても好感触。状況は暗くても雰囲気が明るいのでハッピーエンドにまとめるかと思いきや、「そんな結末は許さないわ!」的な絶叫とモノローグで事態は一挙にカオス化。ある種の対位法というか、不思議な感覚。
闇夜の中に展開されるラストシーンは、状況から目を反らそうとするほぼ全員と、ただ一人「納得できない!」と叫び続ける女性(脱サラ夫婦の娘)の対比で進み、唐突に全員が抱き合い、木?になって終わる。閉幕後(幕はないけれど)聞いてみたら「あれは人類補完計画で」と説明された。分かったような、分からないような。


ともあれ、演技というものは面白いと思った。体を動かして意味を表現する(またそれを見る)のはそれだけで楽しいことだし、同じライトノベルでも上手な声優さんが声を当てたら全然面白くなる、とかそういう感じでもある。あと、演劇という表現を実行する人々を生で見ることができたのも経験か。普段本当にクロスしない領域へのお誘いがあるのはありがたい。

正直に不満点を言うなら、100分というのはやはり素人には少々長く感じた。あと、状況ごとに何を見たら良いのかわからないのは疲れる。落語やオペラのように最初から筋が分かっていれば、それぞれ好きに自分の楽しむポイントをねらい撃ちできるのだが、筋を追うのと演技を眺めるのとを同時に行わなければならないのは結構タフな作業だと思う。
ことに、結末が考えオチ(だよね?)の場合、筋がよっぽどシンプルでない限り、観客は消化不良を起こしかねない。文章なら何度も元に戻って読み直し、考え直せるけれど、劇ではそうはいかない。理解できるまでゆっくり見ることもできない。おまけに登場人物が非常に多いとくれば、思考のピントを絞るのが非常に難しい。
もちろん、お前の理解力がないだけだろう、という指摘は甘んじて受けるほかないのだろうけれど、個人的な好みだけでいうならば、本作は前もってあらすじが欲しかった。ストーリーに対して、あらかじめある程度のフレーミングをしておけば、それ自体が楽しみだし、その是非を劇中で判断し修正していくという楽しみもある。何より、その方が細かな演技や演出に集中できる。ような気がする。

そんな感じかな。