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珍しく朝早くおきて高速に乗り、ジベッロ村へ。途中のフィデンツァで大学の友人三人を拾って、九時過ぎに到着。

ジベッロ村があるのはピアヌーラ・パダーナと呼ばれるポー川流域一帯に広がる低湿地帯のど真ん中。あまりに湿気が多いのでいろいろいたむ。昔の人はえらいもので、そんなろくでもない土地でも生ハムを作ってみたらしい。当然カビだらけの生ハムが出来上がったが、その中でもいくらかましそうなのを食べてみると意外とおいしい。たぶんこんな感じでできたに違いない。つまりこれが名物クラテッロである。少なくともキロ当たり30ユーロ以上で小売される生ハムで、つるしで一つ4キロから5キロなので日本円に直すと一個当たり二万円を超えるアホみたいな生ハムである。普通の生ハムはキロ当たり20ユーロくらい。

何をするかと言えばこのクラテッロの熟成のための積みなおしで、スピガローリ農園で昨年の11月に吊るされたものを最終熟成のために安定した気温が保たれている古城の地下室に運び込んで再度ぶら下げる、という作業である。スピガローリ氏は代表的なクラテッロ生産者で、彼のそれはキロ当たり50ユーロはくだらないらしい。一個4万円くらいの生ハム。

半年と少しほど乾燥過程を過ごした干し肉の塊は二キロほど重さを減らして一個当たり約6キロから7キロ。来年五月頃に仕上がり、最終的にはさらに減らして4キロから5キロ程度の重さになる。ともあれ、これが一つの棒に6個ぶら下がっているのをインド人はヒョイヒョイもって行くから案外軽いのかと思ったらやっぱり死ぬほど重かった。

38度の気温の中、滝のように汗を流して運ぶ。半年の熟成でカビだらけである。僕もカビまみれである。運んだ後空気銃でカビを飛ばしてトラックに積み込む。積み込むといっても生易しいものではなく、投げる。一個4万円をぼんぼん投げる。ボヨーンという感じで肉の塊はトラックの荷台に転がっていく。なんだか愉快な気分になる。作業は夕方六時まで続いた。

何で休暇中にわざわざこんなアホみたいな作業をしたかと言えば、僕は聞いたのである。去年この作業に参加した面子にはそれぞれこのアホ高いクラテッロが半切れずつプレゼントされたらしい。半分でも2万円、日本で買おうと思ったら倍はするはず。しめしめ。なのに今年はビールが三本とコカコーラだけとは何事であるか。馬鹿にして。

ミラノの伯爵子息ミケーレを加え、意気消沈した三人は不平たらたら帰途に着く。助手席の窓からせっせとサラミの皮を捨てるミキ。でもその皮はみんな後部座席の窓から僕に飛んでくるんです。うちでご飯食べていきなよと言う彼の誘いを断って(何はともあれ状態異常「カビまみれ」を何とかしたい)帰宅。

夜食はまたもやトマトのパスタである。カルボナーラの予定だったのだけれど、いかにも重たいから変更。二人とも疲れ果てた。いろんな意味で。