『リセット』ちまちま

大君は神にしませば天雲の雷の上にいほりせるかも


この歌は持統天皇の御代のものとすることもあるが、さだかではない。帝が飛鳥雷の丘に仮小屋を建てられた。その時、陛下は神であらせられるから、雷の上に住まいになる――こう申し上げたのです。

わたしは、人麻呂がこの歌を詠んだ時、陛下も、周りの方々も、微笑まれたのではないかと思う。

洒落といっては、よろしくない。ただ、<<神にしませば>>というのは、この頃、慣用的に使われた表現なのだね。――となれば、歌の妙味はその後をどう続けるのかにある。<<神にしませば、雷丘に仮小屋を建てられた>>。そこに表れた人麻呂の真心は、陛下にも、周りの方々にも、温かなものの染み入るように伝わったことと思います。 
北村薫『リセット』pp75-77

ああ、読書って幸せ。