物語という言葉は、言うまでもなく物を語ることを意味します。つまり語る対象である何か、すなわちオブジェクトとしての「あるもの」について積極的に言葉を紡ぐ行為が物語りであり、そうして生み出されたものを物語という。言い換えるなら、語られたことによって物が生まれるのではなく、物について語った結果、はじめて物語が生まれるのです。

物語を生みだそうとする時、そこにははじめに、語るべきものが絶対に必要です。そして、これを持たずに語りはじめられた言葉の群れは、それはまさに語るべきことを持たないがために、実は終わることもできません。「物語り終える」ことができない言葉の羅列は、ひたすら紡がれる修辞となり、折々の見かけがどれほど華やかだとしても、結局のところ底が抜けるでしょう。