GUNSLINGER GIRL

GUNSLINGER GIRL 5 (電撃コミックス)
http://d.hatena.ne.jp/kaien/20050529/p2#c への個人的補足

■価値相対主義な日々・どっちもどっちの対峙
ピノッキオだってひどいんです、命令されるまま、わけもわからない女の子をばんばん撃って殺してましたしね。そのくせ殺す相手は選ぶとか、誰かのために生きてるとか、欺瞞の点で言えば、公社とどっこも変わらない。ところが、ちょろっといくつか人情話を混ぜられただけで我々の評価は彼に転ぶ。いい加減なものです。次公社側(故意なのでしょうが、今回全く役立たずだったジョゼッフォ組あたり)の人情話を見せつけられれば、またなんとなく公社側に転ぶでしょう。そういう意味で「我々の価値観?が不確か」なのは、まさにその通り。

■バランス崩壊・信じるもの、信じないもの
どちら側にも言い分があって、しかもそのどちらにも欺瞞があるのだから、両者の関係は(両方間違っているという意味で)イーブン。「正義があちこちに転がってる」というのもその程度の意味でしょう。それでもこれまで、公社側は主役としての視点が当てられるように構成されていたから、彼らの言い分が我々にとっては、比較的に優勢(もちろん、それを”正義だ”というのは言葉の綾です)だった。ただし、今回の激戦において、テロリスト側が自らの欺瞞に気づき*1、罪を悔いる*2にも関わらず、公社側はそのまま一線を越えた*3。それを象徴的に示す事象こそ、トリエラが”逃亡する”ピノッキオに飛びかかって殺したシーン。

■象徴の一戦・空しい涙
「どうしてそんなに頑張る?」と問うピノッキオに対し、トリエラは「おまえなんかにわかるもんか」と取り合おうとしない。根っからの殺し屋のはずのピノッキオが、頑張る理由=戦う意味を疑いはじめたのに、トリエラは頑迷に、そこに価値を信じ続けようとしている。あのシーンで二人が戦うことに意味があったとすれば、それはひたすらトリエラの理不尽な怒り*4の解消です。結果としてトリエラは勝利を収めましたが、あと少しキーが長ければ、彼女の脳は破壊されていたでしょう。だいたい、そもそもの話、作戦の目標がクリスティアーノ確保にあるのだから、あの2度目の戦闘は危険なだけで、”まるっきり無意味”です。*5

■空虚の勝利・相対化の無力
ともあれ、私が何が言いたかったかというと、少なくとも今作の段階では、主役が完全に逆転したということ。構成としての人物露出の点でもそうだし、どちらも間違っているのだとすれば、比較的正しい方がまだましですから、読者としては(無意識だとしても)そちらを選ぶでしょう。そして何より、第五巻を読んだ多くの人が、152頁から続く一連のシーンで、公社による殲滅戦ではなく、クリスティアーノたちが脱出に成功することを願っていたはず。無表情にフランカを射殺するアンジェの姿に、「正義なんて相対的だから」なんて言葉は、もはや何ら意味を持たない。あれは紛れもなく悪い行為です。心が知っている。

*1:p49,p66「自分だけが特別だと思ったら大間違いだわ」,p72,p126「やり方を間違えたらしい」

*2:p140「すまなかった」,p165「ごめんなさい」 
なお最終頁におけるヒルシャーの無言もまた、言葉にならない謝罪だと推測される。トリエラを救ったつもりで、彼女を未だ悪夢の中に閉じこめていることに彼もやっと気づいたはず(pp174-175)。結局、彼が第三巻p103でだだっ子トリエラを無理やり抱きしめなかったツケが、こんなところに出てきてるわけで、今回も抱き寄せる以上する度胸もないヒルシャー。男ならそろそろしっかりしなさい。ではなかった、二人はどうなるのでしょうな

*3:pp36-37
 パトリツィア&マルコー「どうして? 夢のために悪事に荷担したの?」「俺だって望んでこうなった訳じゃない。わかってくれ」 悪事だと断言するパトリツィアに対し、マルコーはそれを否定しない。自己欺瞞そのもの。そしてそんなマルコーの可愛いアンジェラは、可愛そうなフランカを朱に染めてくれました。今は機銃を愛しげに撫でる表紙のアンジェが、いくつもの意味を持って見えます。

*4:p148 「ヒルシャーさんから貰った銃で私を撃ったな!」 ヒルシャーの道具=銃となろうと決断した彼女にとって、彼の銃が敵の手に渡ったのみならず、その敵により自分が撃たれる…などという状態はまあ許し難かろう。整理不足

*5:他の注でも述べた通り、今回のトリエラの暴走が第三巻の苦悩の後遺症によるものであることは明らか。元来彼女は自分が”今ここにいる理由”、自らの役割に悩み続けていた(第一巻p84参照)が、第三巻でついにかんしゃくを爆発させて思考停止。とりあえず「道具としてヒルシャーの役に立つ」ことを選択した。故に彼女は役に立つことを証明しつづけなければならず、そのためにはどんな無理をしてでもピノッキオを倒す必要が生じたのである。ああもう、ヒルシャーが「愛してる」と言えば解決するのに!