シンフォニック=レイン ウェンディさんへの返事 抜粋

シンフォニック=レイン DVD通常版

>話は変わりますが、はじめてのCさんのS=R考は
>理由や辻褄の事を考えないとしても、大変興味深く読ませていただきました。
>フォーニ・・・もといアリエッタシナリオこそがS=Rの最大の真実だと信じる私にとっては、
>アリエッタシナリオを、アリエッタの想いを否定するような解釈をすることは出来ません。
>しかし、このような考えも、S=Rを読み解いた方の一つの結論と思えば、
>同じ考察を書くものにとって、これ以上有難いものはありません。
ウェンディさん Angeltrick http://www.geocities.jp/dfwendy2/


ありがとうございます。
ただ、私の解釈について、少々誤解があるようですので、言い訳させてください。
(ウェンディさんへ。もしもあなたの文面転載に問題があるようでしたら、仰ってください)


以下、ネタバレ危険。






私の解釈は、確かに当初、「フォーニの行動の純粋性を疑う」、すなわち「フォーニこそが最悪の大嘘つき」で、「トルタもクリスも二人とも騙して、まるで悪霊のように復活を目論む霊的存在」ではないか、という仮説を導きました。そうすると、当然そもそもアルは死ぬ前から悪霊のような恐るべき性格を持った女性であったはずで、彼女の行動は過去に遡ってまで(それこそクリス獲得の頃から)虚偽に満ちているものであった、という結論に辿り着いてしまいます。困ったことに、これはこれでそれなりに『誰も信じたくないし、私自身にも信じられないけれど全て否定することはできない』程度には、それっぽい状況証拠が揃っていて、私もうんざりしました。台無しだ、と。

でも、それはやっぱり変だと思ったのです。SRの各所で、そして何よりフォーニパートで、彼女が見せるクリスへの、そしてトルタへの愛情。風邪を引いたトルタへの、(”文字にされない”)「泣いてるの? 歌ってあげようか」。12/30、倒れたクリスへの一連の叫び。「…お願い、思い出して」。あれは間違いなく、悲しいくらいに暖かい、真実の行動だとしか思えない。そこには根拠はありません。トルタも言っていた通り、ほとんどが嘘の物語の中で、それが真実だと言える証拠はない。ただ、「わかるものはわかる」。あれは嘘偽りのない、本当の心だとしか思えなかった。…おそらく同意して頂けると思います。

だから、私は根本的に、勘違いをしていたのです。最大の嘘つきは、トルタでもアルでもなかったのです。それは、まさに ”「雨が降っている」と主張する” 主人公、クリスでしかなかった(この辺りは、私の3/22の文章を参照下さい)。アルはその嘘に気づいていたからこそ、ずっと彼の視点をトルタに向けようとしていた。でも困ったことに、たぶんクリス自身が、自分の嘘の存在に、明確には気づいていないのです。だからこそ、彼の嘘はこの物語の中で、最も見つけにくい。そして、クリスが自らの嘘に気づかず行動し続ける限り、アルがどう思っていても、クリスが思った通りにしか、物語は姿を現さない(読者の前には――だって彼の視点で彼は話す)。

私の解釈を受け入れて頂く必要はありません。ただ、どうかこれだけは理解してください。私は、アルの想いを、否定しているのではないのです。むしろそれは正反対、フォーニの存在こそ、”この物語を包む、壮絶な愛”そのものだと私は感じている。彼女を襲った運命は、間違いなく悲惨で、理不尽で、納得がいかないものだった。交通事故に遭った上、わけのわからない妖精の姿にされて、あげく「私はもう長くない」と彼女自身が理解している。こんな残酷な話はない。それなのにアルは、ずっとクリスを正しい方向へと導こうと、(何もしなければクリスを獲得できるのにもかかわらず)、自らの益にならない行動を採っていた。

自分を捨ててでも、誰かに尽くすことが愛の定義なら、アルの行動はまさに愛そのものでしょう? もちろん、これはトルタにも当てはまる。彼女はずっと、身を捨てて、もはやおぞましいまでに自分の想いを偽って、クリスの世界が崩壊するのを防いでいた(もちろん別の見方もできます/すべて二面性を持つから)。…なのに、そんな限りない二つの愛に囲まれながら、それに気づかない振りをして、彼女たちの想いに行き場をなくさせていた張本人は、他でもないクリスです。だから私が最終的に断罪したのは、アルでもトルタでもなく、主人公たるクリスなのです。私は彼が憎い。許せない。自分だけには何の罪もないような悲しげな顔をして、みんなを「許そう」としているなんて。十字架にでもかけられてしまえ。


アルの想いは真実でした。彼女はクリスが大好きだった。
ただ、彼女はそれではいけないと思っていた。
なぜなら彼女は、クリスが本当に好きなのは誰かを知っていたから。

こんなに悲しい想いを抱えたヒロインを、私は他に知りません。
そして、こんな理不尽な運命にもかかわらず、最後まで自分の愛を貫いたヒロインも。
私には彼女が、何か、いわゆるヒロインを越えた何かだと感じられてならないのです。

クリスにとってのヒロインは、トルタでした――公式HPにも記載の通り。
ただ、私たち全員にとってのヒロイン、それはアルなのではないでしょうか。
彼女の愛こそが、SRという作品を、この冷たい世界を、間違いなく、
限りなく暖かく包んでいる。私はそう思います。