もはやあまり語るべきではないかもしれない事象

…まだいろいろ考えてはいるのですが、これ以上は些細な問題、というか、あえて触れるべきではない問題のような気もしています。なぜなら真実は語れないものであり、語れるものはことばであり、ことばは歌なのです。だから、歌は真実を内に含みながら、やはり真実そのものではないのだと思っています。（id:arsyu:20050205#cへの書き込み）

※前提条件
・魔法は、「ないもの」を「あるもの」とする力である
・魔法の発動には「嘘のことば」と「真実を見る力＝魔力」が必要である
・個人の能力はおよそ「嘘のことば」か「真実を見る力」のどちらかに分けられる
・だから、普通、魔法は一人ではかけられない　　
・ただし、稀に、その両者を兼ね備える人物が存在する

・歌は「嘘のことば」を意味する
・フォルテールは「真実を見る力」を意味する

魔法。ありもしないものをあるものにしてしまう力。そのためには「材料である嘘」と「駆動キーとしての魔力」、そして付け加えるなら、その魔法の「対象」が必要だった。究極的には、魔法は一人でかけられる。魔法を自分にかけてしまえば良い。しかし、一人でかける魔法は弱い。一人で魔法をかけることは、無理ではないが、弱いのだ。ファルエンド（正確には魔法ではないが）を見てほしい。リセエンドを見てほしい。「一人」でかける魔法は、「ただ一人」にしかかけられない。そして、案外たやすく解けてしまう。おわかりだろうか。あの二人のエンドを見て、少なくとも前者を、「ハッピーだ」と思った読者はほとんどいないだろう。それは、拡大しない。「対象」以外、それ以上の人々、つまり「世界」を巻き込む強力な魔法の始動には、絶対に二人以上が必要だ。

ファルの魔法
彼女の魔法は、彼女が一人でかけていたゆえに、そして何より、彼女に「魔力」がなかったゆえに、明らかに弱い。というよりも、正確には魔法でさえなかった。それはつまり「ハッピーではない」。彼女の魔法はおそらくファル自身に向いていた。だからあのエンドで、彼女はとても幸せ（なつもり）だ。しかし、あのクリスの表情、彼はけしてハッピーではない。そして、読者も、ハッピーではない。彼女の魔法は、あまりに弱い。嘘だけでは魔法は破綻する。

リセの魔法
リセは、フォルテールを弾く力＝真実の目を持ちながら、歌の名手＝嘘の語り手でもあった。それは、彼女が二面性を持っていたことを意味する。そしてそれは、アルとフォーニの関係に極めて近い。リセとは、分離していないアル＝フォーニなのだ。だから、彼女の紡ぐ虚偽は、かなりのレベルで強力な魔法。それはけして「ハッピー」なものではないのに、それは一見「ハッピー」だ。クリスにとっても、読者にとっても。しかし、そこにはかろうじてトルタの侵入が許される。そしてそれが、読者にとっても、破綻をもたらす。やはり、一人でかける魔法には限界がある。

”いくつもの”世界を巻き込んで発動した、シンフォニック＝レイン最大の魔法。それはフォーニの魔法に他ならない。彼女の小さな魔法、その虚偽は、近づくものすべてを巻き込んで肥大化し、最終的にクリスを、クリスの属するすべて世界を、そして我々読者をも巻き込む馬鹿げた威力を持ってしまった。それは彼らの間で極めて緻密に重層化し、私たちの間で重層化し、世界をほとんど完全に塗り替えることに成功した。…おかしい。いくら彼女自身が嘘のような存在＝妖精だとはいえ、一人でかける魔法には限界があるはず。それは一人にしかかけられないはず。

その答え。フォーニはやはり二人でかけていたのだ。それはつまり、フォーニとアルの合同魔法。元々「二面性≒二つの人格」を持っていたアリエッタは、意図してかどうか、アルとフォーニの二人の存在に分離（これも、実は、嘘）することで、たった一人で強力な魔法を始動させた。この二人がかけた魔法は、まずクリスを、そしてトルタをその虚偽のなかに取りこむ。そう、二人の魔法は二人に向けて放たれていた。クリスはその嘘「僕は永遠にアルが好き」によって、もやは存在しないアルへの想いを募らせ、トルタはその嘘「姉さんと私は同じ存在」によってアルへと変貌するために突き進む。この嘘は自己実現のために自己拡大する。魔法とは目的を持って拡大する虚偽なのだ。そしてその目的とは、自らを真実にしてしまうこと。

ではなぜ、フォーニの魔法は「真に完璧」ではなかったのか？　最終的にハッピー、つまり「真の真実」だと言われている、トルタの想いとどう違ったのか？　そして「目的をもって、ないものをあるものにするために行動すること」、それは「努力」とどう違うのか？
――たぶん、本質的には、何も変わらない。その根底にあるものが、真実だったか、偽りだったかの違いだけだ。しかし、真実は存在するのかどうかわからない。なら、何が本当なのだ？　この世界のすべて、すべて「目的を持って行動すること」のうち、なにが魔法ではない？