『燃えるV』

島本和彦*1作。サンデーだったか何かに連載されたテニス漫画。ほとんどテニスをしない。正確に言うと「いわゆるテニス」をしない。主人公は武道を一通り修めたガチンコな少年なのだが、テニスはやったことがなかった。お嬢様のお遊戯だと馬鹿にしていたからだ。なのに成り行きで全日本ランク上位者と戦うことになり、当然サーブミスを連発する。しかし運動神経と基礎体力だけは超一流のため、延々と続くラリー。対戦者は鬱陶しくなり、つい彼にボールをぶつける*2。彼は顔面に痛烈なボレーを喰らい、そして悟った。「なるほど!」 …その後の展開はご想像の通り*3

*1:逆境ナインでヒットすることが多くなってきた。今更どうして島本和彦なのかという疑問の答えは、おそらく君望ファンディスク辺りなのだろう。さて島本和彦と言えば『逆境ナイン』が定番であり、最高傑作だというのは多く意見の合致するところだと思う。いきなりと言えばいきなりな冒頭、無茶な屁理屈展開、100点差、記憶喪失…。ハチャメチャな要素を大量に詰め込んであるにも関わらず、なんとかきちんと6巻にまとめ上げた手腕はもはや島本和彦のそれとは思えないくらいだ。間違いなく彼の代表作である。しかし彼は他人に薦められる漫画家かと訊かれたら、私は逡巡せざるを得ない。と言うのも島本は呆れるほど大量に作品を乱発しているので全部でいくつあるのかさっぱり分からない上、複数誌に同時に連載を持つことが多々あり、あげく青年誌から少女漫画まで散々節操なく書き散らすために、主旨も作風もストーリーもとにかくもう無茶苦茶になる。正直に言って殆どロクなものではない。あんまり無茶苦茶なので大手から声がかからなくなり、しばらく前までは彼が書き始めると休刊になるような具合であった(最近は何をしているのかよく知らないが、ラジオのパーソナリティをしていたとかなんとか。テンションは高いから案外向いていそうだ)。とは言え、やはり島本和彦が魅力的な漫画家であるのは間違いない。

*2:ご存じの通りテニスでは体にボールが触れた場合、そのボールがどんな様子で飛んでいようと、触れた側の失点となる。たとえそれが狙い澄まされたモノだったとしても!

*3:つまりボールを故意に相手にぶつけ、失神させることでトーナメントを勝ち抜いていく。当初彼の技は相手の攻撃球を激しくレシーブし命中させる「迎撃ビクトリー」のみだったが、サーブからいきなり相手に命中させる「攻撃ビクトリー」を編み出してついに世界の頂点へ。もうめちゃくちゃである。