バイク乗りの楽園

もう一人の主人公 :ドゥカー・イク


 コロニー育ちの中年男性ドゥカー・イクには一つの夢があった。大地の上を思うままにバイクで駆け回りたい。バイクを馬鹿にして幅寄せしてくる大型車両や、バイクいじめの好きな警官らを威嚇しながら、どこまでもどこまでも暴走したい…。しかし彼の世界は密閉されたコロニー内であり、そのようなことは夢のまた夢。鬱屈した日々を送るしかなかった。ところがある日、彼にまたとないチャンスが訪れる。所属する軍が地球を侵攻することになったのだ。驚喜した彼は女王に上申した。 曰く、”地球侵攻にはバイク型兵器が適切です”と。

 「巨大なタイヤで大地を蹂躙することにより、ただ前進しながら敵対施設を破壊し、同時に圧倒的な力を誇示することで地球人の戦意をそぎ無駄な流血を防ぐことが出来る」という脳みそに花が咲いたような意見を鵜呑みにしたパッパラ女王の元、彼は思いつくままにバイク型兵器の建造に精を出す。 タイヤ付き戦艦、タイヤ付きモビルスーツ、バイク型戦車…無限の小遣いを際限なく趣味に注ぎ込める日々。男にとってまさにこの世の楽園である。

 彼には意外と発明の才があったのか補佐した研究者達が優秀だったのか、馬鹿馬鹿しいコンセプトで開発されたバイク兵器群は予想に反して恐ろしく高性能なものに仕上がった。ドゥカーは完成した兵器群のうち、比較的バイクに近い形状のバイク型戦車隊の指揮権を手にし、他のバイク型兵器と共に念願の大地へ降り立つ。最新技術を詰め込んだ巨大な二輪兵器に地球側は全く対処出来ず、彼と彼の部隊は思うがままに大地を駆けめぐる。誰にも彼の幸せを止めることはできないのだった。

 だがそんな彼もついに敗れる。尋常でない戦闘能力を持つ少年、ウッソと彼が操る人型兵器ガンダムの前には彼のバイク乗り魂も通じなかったのだ。撃破殲滅されるドゥカーと彼の部隊。しかし肉体が砕け散ろうとも、彼はけして不幸ではなかった。忠実な部下であり、また若く美しき恋人であるレンダ・デ・パロマと共に幻のアメリカンに跨り、二人が夢見ていた六角形のログハウスへと旅立つドゥカーの顔にはどこまでも満ち足りた微笑みが広がっていた。

〜FIN〜

解説:
 Vガンダム影の主人公ドゥカー・イクの真の目的は、人類総マヌケ化計画ではなくこちらにあったと推測されます。彼は彼自身のすべての希望を実現し、結果大混乱に陥った人類をほったらかして物語中盤に勝手に退場しました。きっと、バイクの上で死ねるのは本望だ、なんて思っていたに違いありません。ああ、趣味の男のはた迷惑なことよ!