08年末版 ニコマス・キャラクターガイド

 アイドルマスターMADを中心とした、ニコニコ動画上のアイドルマスター作品群、そしてそれらを取り巻くファンやクリエーターの活動を総称してニコマスと呼ぶ。多彩なバックグラウンド、多様な年齢層からの参入を集め、必ずしも原作アイドルマスターを遊んだことのないファンや創作者の相互作用で成長した結果、独自の文脈と歴史を持つニコマスは、それ故に内向きである、またキャラ改変が酷い等の批判も受けている。
 しかし、萎縮や反発から、不要な諍いや自粛が発生するのはつまらない。事実は事実として、何がどうであるのか、主に各キャラクターに対するネガティブ情報を列記し、主観を交えて紹介する。来年1月に『アイドルマスターSP』の発売を控え、これまでニコマスに踏み込み辛かった人々の役に立てば幸いである。


天海春香
 
 白黒騒動も落ち着き、中の人との融合も進んで、弱点のないように見える春香さん。色々踏み越えて、やっと「普遍」のキャラとして確立したのだろう。歌唱力も向上し、何もかも笑って済ませられる時代になったとも言える。もっとも、融合が進みすぎて、無印アイドルマスターの春香さんの性格が薄れているという批判も聞かれるが・・・。ののワさんの無表情に、歩んできた道のりと悲喜劇への感傷が滲む。

白・黒春香騒動と愚民
 少なくともアイドルマスターMADが作られ始めてから数ヶ月まで「無個性」として人気の乏しかった春香だが、ネタ的な腹黒要素(声優である中村繪里子の振る舞いにも若干の黒さが見られる)が導入された結果、おとぼけ守銭奴からガチ魔王の振幅でダーク/ケイオス性向を強調するニコマス上の人格(黒春香)が生まれる。これに呼応して、春香の可愛さや凛々しさを前面に押し出す人格(白春香)が登場し、それぞれにファンを集めた。

 ことに前者、特に「閣下」あるいは「春閣下」と呼ばれる真性黒春香動画には「愚民」と呼ばれるお祭り好きな信徒が集い、真っ赤なorzを代表とするコメント弾幕を貼りまくった。愚民の自意識が高まるにつれて自然と規範が定まり、その統率された行動はニコ動における春香のアピアランスを大幅に強化したものの、再生を重くする、動画が見づらい、そもそも弾幕が嫌い、といった反発も招く。

 一方で進む白春香の勢力拡大、原作ゲームを体験したファンの増加は、前述の愚民への潜在的な反発と相まって、「春香はそんなに黒くない」という、それ自体は以前から存在した主張を、「黒春香はキャラ改変であり、なおさら閣下、愚民は憎むべきニコ動の産物」なる言説へと一部変化させてしまう。この流れを加速したのが(悪意は無かったとは言え)、ニコ動で春香MADを見てゲームを買ったファン層だったことは、実際皮肉である。

 その後、アイマスMAD上の白黒両春香は統合され、彼女は「ちょっと黒いけど可愛いアイドル」として地位を築く。従って白黒の呼称は次第に失われ、閣下はネタでなければ架空戦記界隈に細々と生き残り、あれほどの存在感を示した愚民は、限られた聖地的な動画にその痕跡を残すのみとなる(統率された愚民弾幕に出会えたなら、あなたはラッキーだ)。しかし僕は、閣下が閣下として君臨していたあの日のことを忘れないだろう。

 上述の通り、「白/黒春香」「閣下」「愚民」等のタームの使用にあたっては配慮が必要。殊に原作ファンの中には、ニコマス設定に過敏な反応を示す人も多い。ただ、こうした事情から、ニコマス上においてさえ、これらの用語の使用が躊躇われる傾向があるのは残念である。


如月千早
 
 無敵と言えば彼女ほどに無敵のキャラは珍しい。当初から人気を集め、今でも変わらず自称婿、自称父親は数知れない。あえて言うなら、中の人が別名義で18禁作品にしばしば登場していることが批判の的になるくらい。まさに鉄板と呼ぶしかない立ち位置、それ自体がネタなのだからたちが悪い。胸囲72センチのM歌姫は、今日もどこかで9393している。

専属婿の牙城
 熱狂的なファンクリエーターを擁する点では、星井美希と並んでアイドルマスターMAD界隈筆頭である。07年末の騒動、相次ぐ大物クリエーター引退の波乱に脇目もふらず、淡々と自らのパッションを叩きつけ続けた彼らは、間違いなく08年前半のニコマス創作を支えた。はしゃぎはしても揺るがない安定感は、千早界隈の強みという他ない。


萩原雪歩
 
 造形、設定、人気、どれをとっても最高レベルのキャラクターである。当初から変わらぬ人気を誇り、良きクリエーターにも恵まれ、美麗なステージから萌えの一言まで、人気作品は枚挙に遑がない。しかし、如月千早と異なり、担当声優の迷走ぶりが彼女に重く影を落としている。「歌声が変わった」「ライブに来ない」という指摘は、特に声優問題に詳しくないファンからも顕著。穴掘りの時間はいつ終わる。

ゆりしー
 雪歩を担当する声優、落合祐里香。歌も演技も上手なのだが、どうも色々不器用なようだ。2chの声優板を中心に、誹謗中傷の嵐が吹き荒れ、相当荒んでいるようにも見える。アイマスライブにも欠席が続き、ファンの不満が燻っていることは否めない。ただ、人は失敗するし、批判もされる。けれど、少なくとも、何があろうとあなたと、あなたの仕事が大好きなファンは多い。

 声優の話題を出すこと自体に強烈な嫌悪感を示すファンが少なくないことに注意。彼らの多くは、その話題そのものが荒しの格好の標的であることを知っており、事実、何度もその事態を目撃してきた。踏み込もうとするならば、自身が荒らしになる覚悟を。


高槻やよい
 
 如月千早と双璧をなす無敵キャラ。インチキじみたビジュアル、ろれつの回らない歌声、ロリキャラの権化と呼んでも過言ではないインパクト。他のヒロインと並べても、一種宇宙人的な存在感を示す。ある意味反則の最終兵器であり、「名前は知らなくても萌えた」という人の数では、おそらくアイマスヒロイン中トップ。ただ一つ、実家が貧乏という設定だが、「貧しくて枕営業」的なアイデアには反発が大きいことは興味深い。

永井先生アイドルマスター
 有名な実況系プレーヤー、永井先生が初プロデュースに選んだのもやよいだった。当初「ごまえー(Go My Way)を歌わせたら積む(放置する)」と豪語し、「キモい」「オタゲー」等々とボロカスに言っていた彼だが、徐々にのめり込み、ごまえーで止めるどころか見事一年間のプロデュースを完遂。あと一歩のところでラストコンサート失敗、涙の別れという結末に、多くの視聴者が心打たれた。

 初心者に勧めるのに向いたキャラクターだと思われる。特に弱点はないものの、声優の筋肉質な肉体をネタにすることには賛否が分かれる。また、「やよクリ」はニコマス界隈で人気を誇るディフォルメキャラの代表格だが、それ故に嫌悪感を示す原作ファンも存在することは心の隅に留めておくと万全だろう。


秋月律子
 
 歌唱力、演技、スタイルと、素晴らしいものを持つ律子。ただ一つ、複雑なプライドによる複雑なビジュアルが評価を分ける。特筆すべきはファンの心情さえも複雑なことである。彼らは心ない視聴者からの暴言に触れ続けた結果、彼女の素晴らしさを防衛的に追求する一方、外部からの彼女への評価に過敏に反応する傾向を備えてしまった。その統率された振る舞いと苛烈な防御機構には、「律子ファンは地雷原」なる言葉さえ聞かれる程である。踏み込む際は殴り合いも覚悟すること。一方で、彼女を支える、一癖も二癖もあるファン層には定評があり、華々しくトップで活躍することこそ珍しいものの、様々な分野にその足跡を見つけることができる。

リッチャンとメガネ
 何があろうが外れないメガネ。サングラスを与えれば頭にのせ、キュンキュンメガネを用意すれば頭に乗せ・・・おさげは解いても、これだけは譲れないと断固主張する律子。当然ながらファンにとっても、彼女のメガネには、彼女と自身のアイデンティティを解き明かす秘密が込められている。らしい。

 律子に関する意見は、たとえそれが他意のないものだとしても、想像以上の反発を招きがちなことに注意。対話にあたっては細心の注意が必要。実際、「冗談でも彼女を貶してはいけない」という空気を醸成してしまっている現状は、正直あまり好ましいものだとは思えないが・・・それらを背負うのも律子と律子ファンの宿命なのだろう。


三浦あずさ
 
 古来「ババア」と呼ばれて親しまれて来たあずささん。が、それが単なる暴言なのか親愛を込めた呼びかけなのか字面では判断できず、実際に心から嫌がっているファンも少なからず存在している様なので、なるべく言わないのが大人の礼儀だろう。ファン層におっさんが多いせいなのか、比較的落ち着いた界隈である。また『歌姫楽園』で聞かれる如月千早とのデュオ曲の数々は、掛け値なしに素晴らしい。

クラブあずさ
 アイマスヒロインでは小鳥さんと共に飲酒可能であること、また中の人の豪快かつエロティックな性格と貫禄の歌唱力もあって、ニコマスでは数々のアダルティな名曲を擁するタグ、「クラブあずさ」のボスとして君臨している。ファンは副業(リアル仕事)が終わると、めいめいにアルコールを用意してモニタに向かうのである。懐かしのあの曲を聴きながらグラスを傾ける(クリアアサヒの缶でも良い)一時は至福。

 「キャバレーあずさ」なる秘境があるという噂も。


水瀬伊織
 
 「釘宮を起用したのに不人気」と言われたのは昔の話、今年一番伸びたヒロインの一人。彼女の、よく言えば老成した、ざっくばらんに言えばおばさん臭い現実感が、釘宮キャラ的なしがらみから抜け出したことは大きい。他の誰でもない水瀬伊織として、美麗なPVからボーカロイド曲とのほのぼのコラボに至るまで、その魅力を発揮した。アイマスSPではアーケード版以来のM字デコを披露していることもあって、「人気が復調して生え際の後退が止まった」という愛溢れるコメントも聞かれる。


菊地真
 
 少なくないファンを抱えるものの、今年もトップを取ることは出来なかった。個人的には、彼女の格好良さや可愛さをアピールすることに夢中になるあまり、彼女の本質的なムッツリさの表現がおろそかになっているのが原因の一つではないかと考える。持ち歌『エージェント夜を行く』自体が完全なエロ歌謡なのだから、そろそろ凛々しさや乙女心以外の、直球のエロMADも流行って良い頃合いではないか。実際、彼女の乗馬動画は恐るべき反響を得たわけだし・・・。

マコタ
 世界で最も軽量かつシンプルな多段真AA。原理的にはオワタにアホ毛を付けるだけで完成する。かわりにνを用いる偽物も散見されるので注意。

   )ノ
\(^o^)ノ ユキホーッ、ガバッ
  (  )
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 今さらいないとは思うものの、「誠氏ね」はやめよう。


双海亜美・真美
 
 かつて『とかちラーメン大盛り』で世界を席巻した双子。しかし実際、「とかち」という呼び名は忌避されて久しい。声優の下田麻美による「とかちではない亜美真美も知ってほしい」という旨のインタビューが、どう転んだのか「下田麻美はとかちと呼ばれるのを嫌がる」と認識された結果である。いつしかニコマスファンの間でも彼女らをとかちと呼ぶことは珍しくなったが、カタカナでトカチと書くことによりある程度回避できる。一連の音弄り系MADはますます元気で、今夏にはその名もトカチゴールドなるDJイベントまで開催されたことは記憶に新しい。

とかちと原作ファン
 事実として、ニコニコ動画、そしてニコマスに対する、一部非ニコニコ系アイマスファンの反発は根強い。春香の項目でも触れたが、ニコマス発祥、あるいは原作に準拠しない用語の使用には、しばしば過激な反発が巻き起こる(そして、そのことで場が荒れること自体を嫌って、ニコマス用語自体を封印するファンは相当数存在する)。もちろん、嫌っている人の前で無理に使用する必要はないものの、それに萎縮して自重してばかりというのにも疑問が残る。
 実際、ニコマスのネタがラジオで取りあげられたり、公式化することはそれほど珍しくないし(Ex.AC6春香機体裏の刀)、もしそのことにまで呪詛の言葉を吐くようならば、それは妄執という他ない。アイマスに対するニコマスという便利な言葉もあるのだから、堂々と使いたい言葉を使えばよいのではなかろうか。ただし、相手の土俵でニコマス用語をまき散らすのは、やはり大人げない振る舞いに違いない。

 原作ファンの間では「とかち」という呼び名に対する反発は根強い。


星井美希
 
 上述のとかちと同じく、ニコマス内でも使用が稀になった「ゆとり」という二つ名を持つニューフェース。春香さんの跳躍によってナンバーワンヒロインの座を退いたものの、今度はなんと別プロダクションに移籍するという設定(アイマスSP)を持ち出して台風の目となった。何かと制作側に愛されているキャラクターだが、自ユニットとしてプロデュースできないとして、ファンの悲嘆とバンナムへの怒りを煽っている。



後書き
 春香さんの記述だけ分量が多いのは、僕が春香さんファンだからで、それ以外の理由はない。他の紹介も含めて、不満な方にはご自身でガイド作成をよろしくお願いしたい。

 ニコマスに批判的なファンをひっくるめて原作ファンと呼んだが、これは便宜的な語法であって、原作ファン全てがニコマスに批判的であるという意味ではないことを追記しておく。そもそも誰が原作を遊んでいて誰が遊んでいないかなどゲーマータグでも晒さなければ分からないし、彼らが「原作をないがしろにしているからニコマスはダメだ」と言う以上、それを信じた次第である。ただ、傾向として、原作を遊んだファンは、比較的ニコマスと距離を置く傾向にあるというのは体感している。

 先日、木曜洋画劇場Pと話していて、「ニコマスの面白がりな傾向が薄れた」という意見を聞いた。それと直接関係あるかどうかはわからないけれど、他人の意見を代弁して自制を求める風潮が、例えば「とかち」や「愚民」を隅に追いやった事実は、とてもつまらないと考える。故に、以上に書いたことは全て僕の意見であって、例え参考にされても強制するものではないことを明らかにしておく。


おまけ
 『「自重しろ」ばっかりで何も言えないじゃないか』というコメントを頂いた。事実はその通り。内部コードでがんじがらめにした結果、ニコマスが比較的統率のとれた界隈として安定していることは否定できない。先日、敷居の先住民さんが「大人の対応をする人ばかりがひたすらフラストレーションを溜めていく構造」と指摘していたように。

 ただ、ニコ動では訂正コメントを投下する方がむしろ大人げない行為と見なされるのだから、実際のところ愚民でもゆとりでも好きにコメントすれば良いのである。実際に先日のVOC@LOIDM@STER(VOCALOIDアイマスMADのコラボ企画)では、その名も『愚民戦隊はるかっか』なる作品が人気を集めていた。

 上で述べて来たのは、結局のところ、既に結論の出た口論をもう一度繰り返す労力を回避するための知識に過ぎない。一方で、個人HPや掲示板等での単語の使い方には、用心した方が何かと手間が省けることも事実。TPOというべきか、ニュアンスが伝われば幸いである。