Darker than Black #3/#4 クライマックス
“モラトリアム”なるキーワードが登場するセカンドエピソード。対価の支払いを猶予されているかわり、自分の意志で能力を制御することができない、契約者の出来損ない。このことは、契約者という言葉の意味するところを指し示す、一種の暗号にも思えるが…。
ヒロインは『ファイアスターター』のチャーリー・マッギーを思わせる少女。かの名作同様、ラストシーンのやるせないカタルシスは「イヤボーンの法則」などと笑ってはいられない迫力である。必見。
以下SPOILER ALERT
あらすじ
家に帰らず謎の研究に明け暮れる父を憎む舞。実は彼女は契約者であり、幼い頃に父によってその右手首に埋め込まれた小さな種子が、彼女の能力を封印していた。契約者を軍事利用する企業に勤めていたゆえに、彼は契約者がどのような運命を辿るかを良く理解していたのだ。
けれど種子は彼女の力に耐えきれず徐々に衰え、父親が心血を注いでいたもう一つの種子も、実らぬまま遂に枯れてしまう。
一方、父の元雇用元の企業は、脅迫のために舞の確保を目論む。危機に陥った舞は無自覚に能力を発現させる“モラトリアム”としての本性を現し、追っ手のみならず多数の民間人、そして友人とその父親までを焼き殺し、退行を起こしたところを企業に確保され…。
「いやだ、放せ、パパはもっと凄い人だもん」
「いや、お前の父親は酷いやつだ」
「酷くなんかない!」
「愛してるよ、舞」
「奴はもういい、サンプルを優先しろ」
「貴様らには笑みなど似合わない」
「舞、お仕事がね、ようやく終わったんだ」
「おかえり、パパ」
「やめるんだ、舞」
「・・・どうして?」
「やめろ、やめてくれ」
「契約者に変化したのか。モラトリアムが」
「私、たくさん殺したわ」
「落ち込むこたぁねえ、契約者は殺してなんぼだ」
総括 守るべきは花でなく
父親が水をやり続けた花が地に投げ出され燃え上がるシーンは、彼の犯した過ちの所在を示し、既にこのエピソードの悲しい結末を予感させる。
「実験体にされるくらいなら」と、娘を手にかけようとする父親は最後まで我が儘の極みではあるが、彼の想いが舞をモラトリアムから脱却させたのだろうか。
敵も家族も友人も、舞の持っていたすべてを焼き尽くしたモラトリアムの炎が、スプリンクラーとオーバーラップする冷たい現実の雨で消される結末の演出は憎い。
モラトリアムの終わりが必ずしも幸せだとは限らない。むしろ、それは舞の本当の苦しみと戦いの始まりなのだ。契約者として目覚めた以上、彼女を待ち受けているのは「殺してなんぼ」の世界。皮肉にも、新星の与えられた対価は“レクイエム”であった。