谷間の百合』の主人公は俗世に居ながらにして高踏派を気どるわけだけれど、『木のぼり男爵』のそれと来たら文字通り木に登ってしまうところが面白い。前者は散々馬鹿にした肉欲に絡め取られたあげく、グダグダとした恋文を全く別の女性に書くなど目も当てられない堕落ぶりを見せたのに対し、後者は最後までいっぱしの木の上の男爵様なのである。しかしどうだろう。グダグダになったとは言えフェリックスが(見苦しくも)(女性を口説くべく)最後まで活躍するのに対し、少々ボケた上に気球でどこか空の上へ飛んでいってしまったきり行方知れずのコジモ。嘆息。真実愛を求めるというのは難しいものらしい。