アイマスを巡る騒動の歴史

 壁に大穴を開けた918事件以来、吹き込む北風に心胆を凍えさせているアイマス一家。実は、これまでにも、折々に大小の火事を起こしていました。
 アイマス2問題を総括する敷居さんの同人誌も出ることなので、この機会に、アイマスを巡った非難論難について、まとめてみたいと思います。


箱○移植騒動
 最初に火の手が上がったのは、おそらく、XBOX360(以下箱○)への移植が行われた頃、すなわち06年のTGSから、箱での発売直後07年前後であると思われます。その理由の中心は、今となっては意外かもしれませんが、ゲーム性の変化に対する不満でした。

 アーケードで産声をあげたアイマスは、当初、音ゲーマーも音を上げると言われるほどの難易度を誇っており*1、当然、挑戦心に燃えるゲーマー御用達の文化を花開かせます。



 ところが、XBOX360アイドルマスター(以下無印)からは、強制セーブや育成期限、対人要素といった、アーケードの誇ったシビアさの大部分が排除されていました。ゆえに、ゲームとして面白くないとして、初期アーケードを支えた攻略ゲーマーからの批判を集めることに。

 それでも当初は、アーケード同様、熱心な攻略を試みていたファンたちもいたことが、無印アイマス攻略wikiなどの過去記事に伺えるものの*2、まもなく、彼らの多くはアーケードに戻るか、そのまま立ち去ることになります。

 他にも、美希の登場が「そもそも新キャラは世界観にそぐわぬ」、あるいは「アイマスはギャルゲーではない」と反発する勢力を生んでいたこと、また、「朝の挨拶」に象徴されるように*3、無印ではアイドルユニットのイメージが薄れ、メインに選んだアイドルとだけ関わり合うようなプロデュース形式になったことに対する批判があったことも、特筆に値するかもしれません。


DLC騒動
 無印が実際に始動すると、ニコニコ動画でのアイマスMADの人気もあって、新しい層のプレーヤーが流入します。

 アーケード時代のゲーマーというよりも、美麗で個性的なアイドルたち、にもかかわらず木目の粗いプロット*4を持つ彼女らに惹かれてプロデュースを始めた人々です。

 無印からは、毎月、オンラインで新アクセサリや衣装、小芝居集といった、基本的に有料のダウンロードコンテンツ(以下DLC)のリリースが始まりました。

 そして、新規層である無印のプレーヤーたちは、一種のファンとして、まるでアイドルのグッズを集めるかのように気軽に、このDLCを購入し始めます(一例として、一日のマイクロソフトポイント購入&使用に上限があることを初めて知ったのは、アイマスファンであったようです)。



 しかし、新規衣装の価格はしばしば一着1500円程度となっており、アクセサリーなどの入手も考慮にいれると、あっさりとソフト本体価格以上の出費に。社会人ならばまだしも、学生や子供の手には余る価格設定*5です。

 こうして、まもなく、「搾取」「アップデートに金を払うゲーム」「架空のアイドルに貢ぐ信者」といった言葉が、界隈に投げつけられるようになったのは、予想にたやすいことでしょう。

 もちろん、無印はゲームとして完成しており、DLCはそれをより楽しむための余録に過ぎない*6ことは事実でしたが、繰り返されるこの手の讒言に耐えかねて、自ら「愚民」を名乗り、「搾取」されることこそが喜びであると切り返す人々も発生するほどでした*7


L4U騒動
 2008年春に発売となったアイドルマスター Live for You!(以下L4U)を巡る騒動に関しては、覚えておられる方も多いことでしょう。

 発売前に吹き荒れた「オタ芸」への非難*8は、当然というべきか、全く本質ではなく、むしろ枯れ木も山の賑わいのレベルであったということを、多くのファンが思い知ることになったのです。

147 名無しくん、、、好きです。。。 
[sage] Date:2008/02/25(月) 04:17:10  ID:9zSPOJoH Be:
       ああ、L4Uまであと1週間も無いんだね。この時を
       ずっと待っていたよ。
       さっきまで寝てたけど新しい情報は無さそうだね。
       さっさとゲイツ補充しとかないとな…。
       んー、それにしても初回で一気にリミックスの曲が
       大放出とは…最初は3500ゲイツくらいで良いかと…
       好きで買うから良いんだけど財布が風邪引きそうだw
       きっちりとお金の管理をしとかないとな。


 その制作がアナウンスされ、発売に至る07年〜08年は、まさにニコニコ動画の、そしてアイドルマスターMAD全盛の時代でした。
 従来のファン以外からも(そして海外からも)広く期待を集めたソフトであったL4Uは、しかし、無印と大差ない販売成績にとどまり*9、しかも急速な値崩れで惨めな姿を晒すという、惨憺たる結果に終わります。



 アイマスファンが望んでいたものが「続編」であったこと、にもかかわらず、実際に提供されたのは「音ゲー風味のステージエディター」であった、ということにその原因は尽きるのではないでしょうか。

 しかも「ライブ」を謳ったL4Uではありましたが、ビデオ録画スロットが一つしか存在せず、プレイリストの編成なども不可能であったため、鑑賞用途に不向きであり、ゲームとしても、音ゲープレーヤーには温く、一般プレーヤーには馴染みのないバランス・・・。

 加えて、ほぼフルプライスであったにもかかわらず、DLCの購入を前提としているとしか思えない収録曲の少なさ、そして、発売当初のDLC新曲のラインナップが従来曲の乱暴なアレンジであったことが、ファンの心情を急速に冷え込ませてしまったことも無視できません*10

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    \    ` ⌒´    /   ☆   L4U!限定版を買う権利を与えよう!
    /ヽ、--ー、__,-‐´ \─/
   / >   ヽ▼●▼<\  ||ー、.
  / ヽ、   \ i |。| |/  ヽ (ニ、`ヽ.
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 結局、『オプーナ*11のAAと共に、ディスカウントされていく速度が物笑いのタネにされた他、本編の主役である「ファン代表P」が当のファンにフルぼっこにされたりしながら*12L4Uは流行から去っていくことになりました。

 他、発売前には「無印で購入したDLC衣装を再び買わせる気か」という批判があったこと*13、対戦機能が排除されたことへの反発も、若干ながらあったことも追記しておきましょう。

 いずれにせよ、発売後に熱気が冷めた度合いで言うなら、L4Uアイマス史に残る落差を誇っているはずです。


PS3移植騒動
 時系列は若干前後しながらも、「DLC搾取」問題と共に、常にアイマスを取り巻くのがPS3への移植問題です。

 2chのゲームハード板を中心に、日がな繰り返されている次世代ハード優位論争の一環として、箱○ラインナップの中で気を吐き続けるアイマスは、箱○勢、PS3勢双方にとって重要な位置を与えられ続けて来ました。

 08年時点で関連商品販売60億円規模と言われるアイマスが、日本における箱○の顔の一つであることは間違いないものの、一方で、ソフト売り上げは10万本程度にとどまっています。

 比類ないトゥーン技術、またそれを可能にする本体性能を武器にPS3勢を攻撃する箱○勢(通称痴漢)、ギャルゲーと洋物FPS(戦場ゲーム)しかないハードだと箱○勢を攻撃するPS3勢(通称GK)、さらに、「もし普及度で遙かに上回るPS3で展開すれば、さらなる飛躍を遂げられるのではないか」と夢想するファンの素朴な意見も入り乱れて収拾が付かず、アイマスPS3移植はほぼ禁句と言ってよいレベルであったのがこの頃です。


SP騒動

 
  理想


 09年初頭、ソニーPSPでリリースされたアイドルマスターSPは、「続編」を求めていたアイマスファン、そしてアイマスに興味を持ちつつも、箱○という意味不明なハードの敷居のために購入を躊躇っていたファンたちにとって、まさに念願とも言えるソフトでした。*14

 無印を踏襲しながらもアーケードの風味を復活、洗練させたゲームシステム。魅力的な新キャラクターの追加、新たに書き下ろされたストーリーなど、スタッフの意欲を感じさせたアイマスSPは、しかし、アイマス2にまで遺恨を残す爆弾を投下します。そう、美希のNPCです。

 被害を被るのが一部であったこと、また、発表が比較的発売日に近く、発売の興奮でうやむやになったことなどから、多くのファンにとっては「美希ファンには気の毒だけれど」程度に納まったものの、当の美希好きたちには憤懣やる方なく、結局SPを見送る決断をした人々も少なからず存在したようです。*15


 
  現実


 補足するなら、美希の問題も含めた、新旧ストーリーのかみ合わせの不具合、無印に比較した画質の低下、対戦が三人までしかできない、響がただのアホに見えるなどの不満も上がりましたが、問題の核心は上記、美希の移籍に絞られると思われます。


DS騒動
 アイマスSPと同じく09年に発売されたアイマスディアリースターズ(DS)は、一言で、販売不振に終わりました。一説には二万本程度ではないかと噂されますが、初週以降売り上げランク外に落ちてしまったため、実際はどの程度だったのか、類推するすべもありません。*16

 これまでの方針と異なり、著名な声優をスポット起用することへの反発、また、ゲームシステムの大幅な簡略化がL4U以来再びアイマスをゲームではないものにしてしまったという批判、フルボイスではない、画質がうんこ以下などなど、幾つかの騒動は見受けられるものの、そもそも荒れるほど話題にならなかったというのがおおよその事実でしょう。アイマスのおわコン化はこの頃から始まっていたといえるかもしれません。



 本題から外れるものの、比較的、壁を作りながら各所に点在していたアイマスファンコミュニティ同士の融和が、アイマスDSに見られたことは興味深いかもしれません。

 MMD*17で作成されたHDと見まごうばかりのムービー、高度にDSキャラクターを解釈した紙芝居、そして、それらに対する、以前の垣根を越えたファン同士の交流の開始は、私見ながら、アイマスDSの最大の成果と言えるのではないでしょうか。
 

918の年を越えて
 そして、内外の不満や批判に揺れ続けながらも、比較的安定した界隈を築き続けてきたアイマス組は、忘れようにも忘れられないあの日を経て、大きな変化を迎えました。

 各所のコミュニティが軒並み自壊した結果、不満や怒りのやり場を失ったファンたちは、自らの居場所を離れ、これまで顧みなかった他のコミュニティとの交流を、(半ば余儀なく)行うことになります。

 刺々しい言葉の応酬は、しばしば悲劇をーーなんらアイマス2に悲観を持たない人さえ希望をなくすほどーー呼びましたが、けれど砲火の収まりと共に、冷静な対話の契機となり、また、とどまり続ける人々に「自らのアイマス」とはどのようなものであるかについて、再考する機会を与えたように思います。



  CD新シリーズの好評、最新PVへの期待、不安の中にも、そんな明るいニュース。いまだ癒えぬ傷口は深く、荒廃した界隈は厳冬にあえいでいるものの、事件の焼け跡からは、何かの芽吹く気配がします。

 たかがゲームの範囲を超えて、ファンの日常を新たにした、アイマス2のもたらした衝撃。それがどんな結末を迎えるか、今はまだ分かりません。

 来年の今頃、面白おかしく記事にできればいいなあと、僕は祈っています。


追記:
YSYKさんに多謝


追記2
アイドルマスターゼノグラシア(アニメ版アイドルマスター)の記載漏れについて多数の意見を頂戴しました。
 特に意図があったわけではなく、ゲームネタを念頭に置きすぎてすっぽかしてしまっておりました。ごめんなさい。
 Nachbarさんによく分かる記事を執筆していただいているようなので、こちらで紹介したいと思います。

 アイマスを巡る騒動の歴史・補講
 アイドルマスターXENOGLASSIAは何故日陰者なのか
 http://d.hatena.ne.jp/Nachbar/20110101


 参考:アニメゼノグラをdisる人達の空気の問題。
 http://d.hatena.ne.jp/Nachbar/20100305/p1

 あと、この話題には欠かせない、ちゆ12歳さんのこの記事も。

 本当は面白い「アイドルマスター XENOGLOSSIA
 http://tiyu.to/permalink.cgi?file=news/08_03_18

 他にも大小のネタを忘れていると思われます。よろしければコメント欄などでお知らせください。はじc拝

*1:『Here we go』はジャストアピールが裏打ちだったりしたらしい。

*2:アクセ衣装などのステータス補正データ、育成効果やアピール得点の検証など、無印アイマスにはオーバーなほどの緻密な情報収集が行われていた。

*3:アーケード版では、ユニットすべてのアイドルが挨拶をするのに対し、無印ではメインの一人だけが挨拶を返してくる。なぜこんなところで劣化させるのか、バンナム空気読めない、などと多数のファンがモジモジした。

*4:アイドルマスターの特色として、ヒロインたちのストーリーが比較的ざっくりとしか語られないことが挙げられます。オーディションやレッスンの合間を縫って行う「営業活動」を通してのみ、彼女らの素顔に近づくことができるという仕組みは、一般的な美少女ゲームとは雰囲気を異にしており、その点がプレーヤーごとのストーリーを膨らませやすいという性質につながりました。

*5:もっとも、無印のゲームレーティングはCERO:C(15歳以上対象)であり、高校生であればアルバイトもできよう、という指摘もありますが。

*6:特に、アイドルごとに購入できる携帯アドレスのDLC(入手すると、時折アイドルからメールが届く)などは、下手に購入すると攻略が逆に面倒になるなどの症状を引き起こす(テンションを大幅に上昇させるメールが届くと、低テンションでの育成が台無しになる)など、DLCがゲーム攻略を楽にするという側面はほとんど存在しません。

*7:愚民に関しては、春香ファンの一部の別称としての方が有名ではありますが、参考動画のように、躊躇なく出費を行うという要素も多分に含んでいたきらいがあります。

*8:L4Uでは、プレーヤーはアイドルのステージを楽器演奏、あるいはかけ声で盛り上げていくことになる。このかけ声が、いわゆるハイハイフッフーであったため、オタ芸と呼ばれ、折しも現実のアイドルのライブにおける一部のファンのオタ芸が批判を集めていたこともあって、L4Uのそれをも嘲笑する意見が多く見られた。

*9:未確認情報ではありますが、L4Uは10万本程度の販売成績であったとされます。

*10:当時、タイアップでコロムビアから発売されたアルバムシリーズ「Master Live」に収録の楽曲も、程度の差こそあれ意味不明なアレンジ曲が多く、もはや大多数のファンの記憶にもとどまっていないような有様です。公平を期すためにL4Uを擁護するなら、多くのオリジナル曲や衣装が販売されたL4U後半期DLCのクオリティはきわめて高く、ニコニコ動画におけるアイドルマスターMAD人気の存命に貢献しました。

*11:07年、光栄が満を持して発売したRPG。「100万本を狙う」との社長の言と出荷数に反して販売は記録的な低調、ソフトは次々とワゴンセール送りとなり、あまりの惨状に「きっとオプーナを買うには権利書が必要なのだ」「オプーナが買いたいけれど権利書がない」等々のネタを生んだ。

*12:L4Uはファン感謝ライブという設定であったため、プレーヤーはプロデューサーとしてではなくファン代表としてステージを演出するという形式が取られていました。しかし、これは大変に評判が悪く、ファン代表君はいつの間にか公式(アイドラ)からもフェードアウトしてしまうという悲劇の結末を迎えます。

*13:それに応えて、L4Uでは無印のDLC衣装はL4Uの新曲DLCと抱き合わせで無料提供される運びとなった。

*14:実際、サン、ムーン、スターの三作に分けて、同時にリリースされたアイマスSPは、各7万本以上を売り上げた(と言われており)、アイマスシリーズ上最多の販売実績を収めます。

*15:918事件における竜宮小町問題の根は、このSPでの美希外しを容認した大多数のファンにあるとして、一部この問題には再び焦点が当てられました。

*16:ブックマークコメントで、sea_side さんから「おう! アイマスDSはメディクリ調べで、2009年末時点で4万4408本だ。初回出荷6万本だから発売3ヶ月立っても在庫捌けてない計算だけどな!ファミ通調べだと5万0170本」と教えていただきました。感謝!

*17:ミクミクダンス。3Dモデルで制作されたミクやボーカロイドたちを踊らせることができるソフトとして無料公開され、以後幾度もの改良を経て、現在、ほぼあらゆるジャンルのモデル・モーションが存在する簡易3D動画作成ツールとなっている。